◆◇◆ 動物霊園にて◆◇◆

神奈川新聞2007年7月2日(月)リレーエッセイ「木も れ日」

 私にはチャーちゃんという若くて死んだ猫がいて、毎月命日に府中の動物霊園までお参りに行く。鎌倉の実家で飼っていた犬は 二匹とも庭に埋めたから、いつでも一緒だと思うことができたけれど、チャーちゃんは離れたところにいる。私は霊魂が実在するとは思わないが、実在しない証 明もできない。だから霊魂がある可能性を否定しきれないわけで、チャーちゃんの魂が淋しがっていたらかわいそうだと思うと毎月行かないわけにはいかない。 それにあんまり行かなくて忘れられたりしたら、チャーちゃんが次に生まれてきたときに別の人のところに行ってしまうかもしれない。チャーちゃんはそそっか しかったから。(結局、霊魂を信じてるじゃないか!)
 霊園のあるお寺の境内には木や花がいっぱいあって、春には梅が咲き桜が咲き、五月になると新緑の葉がいっぱいに茂り、梅雨の頃には紫陽花や夾竹桃が咲 く。春と秋のお彼岸とお盆の時期はお参りの人がいっぱいだが、普段の平日だと私以外に二、三組しかいない。ペットが死んで日が浅い人は見るからに憔悴して いる。境内にはいつでも猫が五、六匹いて、その猫を膝に乗せて、いつまでも動かない人も珍しくない。
 チャーちゃんがいるのはお墓でなく納骨堂だ。没年ごとに小さく何部屋にも分かれていて、そこの七段の棚に骨壺が並んでいる。ほとんどどれにも元気な頃の 写真が置かれ、使っていた水飲みやおもちゃが供えられたりもしている。ポン、ちゃめ子、トバ、桃次郎、文太、チャコ、ムー、ふくぞう、愛姫、ズッコ、た ら……これはそこに眠っている猫たちの名前。犬たちはというと、ビッキー、ロッキー、コロ、チロ、ジョニー、スティーブ、ポパイ、ジョイ……圧倒的に洋風 の名前だ。しかし香蘭やいすずというのもいる。ピョンキチ? と思ってみると兎だった。
 この名前で呼ばれた犬や猫や兎たちが確かにいて、飼い主と特別な時間を過ごしたのだ。


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