小さな子どものしゃべりを聞くのが好きだ。「ぼくがねユミちゃんがねサボテンがあってねぼくがサボテンのね、サボテンはとげがささっ、たらいたいって 言ったらユミちゃんがサボテンのとげなんかまほうでとっ、ちゃうからヘーキって言ったんだけどね……」 と、まあこんな調子で文章がどこで切れるかわからないし、息継ぎの場所もちゃんとしていないし、それから子どもはまだ、舌も唇も喉も、とにかく口腔の全 体がやわらかいせいか、すべての子音にどこかmかrの響きがあって、やわらかくくにゃくにゃしているところも好ましく、道で通りすがりに小さな子どもが しゃべっているとつい聞いてしまう。 先日、梅雨のこの時期、朝から降っていた雨がもうそろそろあがろうかという正午頃、まだ幼稚園にも行っていないだろう小さな男の子がお母さんと一緒に、 向こうから歩いていきた。車が通らない静かな路地なのでだいぶ先から男の子がしゃべっている声が聞こえてきた。「さっきぼくがママがね……したら猫がいた でしょあそこの……あそこの猫の足の……」と、いま私は文章にする都合上適当に言葉を入れてみたが、その子の話は本当は私には全然聞き取れなかった。その 子のしゃべりは、じつにいい感じで切れ目なくくちゃくちゃくちゃくちゃ……。 お母さんは若くてとてもおしゃれで、男の子もとてもかわいい黄色のレインコートを着せてもらっていて、それに合わせた黄色の長靴をはいて、差している傘 も黄色。もうすぐ雨があがる空からの明るい陽射しで、黄色がひときわ鮮やかに映えている。お母さんは男の子の話を聞いていないわけではなく、ちゃんと返事 もしているのだが、男の子のしゃべりはそんなこと全然関係ないくらいマイペースで途切れなく、しかも引きずって歩く長靴の音がそれに重なる。どういうわけ なんだろう。ちゃんと、右、左、右、左と歩いているはずなのに、長靴の音はしゃべりと同じに切れ目なくズズズズズズ……ズズズズズズ……。 鳥も木も思わず微笑んでしまう光景だった。 |