ネコラム02  八ニ一(はにはじめ)

その1

晴れた日はカメラを持って、ウロウロと街を散歩をする。
大阪の街なかでカメラを構えていると、道行く人々が、
何を撮っているのかと興味津々にのぞき込んでくる。
カメラの先に猫がいると、「わぁ、かわいい猫ちゃん。」
なんて言って通りすぎていく人もいる。
みんな思い思いのコメントをのべて立ち去っていく。
一言残すというコミュニケーションをいとわない大阪の人たちは、
好奇心旺盛で気さくなのだ。
猫好きのおばさんたちは、なんとはなしに「あの子はねぇ、」
と話しはじめて、あの白黒は最近現れたボスだとか、
この茶トラは子猫の時はボロボロだったけど元気に大きくなった、
など地域の猫情報をありったけ教えてくれる。

         

ところで、猫好きのおばさんがどれだけ気さくかというと、
猫を撮っているのを見つけるとわざわざ家に戻って
自分ちの猫を連れて来ることがしょっちゅうあるのだ。
近所のノラ猫の名前をすべて掌握しつつ、家でも飼っているおばさん。
きまって「かわいく撮ってもらいや〜。」と言いつつ
自慢の猫を抱いてくるのが、なんともおかしい。
先日は、小さなめし屋のおばさんに、店先で飼っている猫が
実は女の子だということを聞いた。いつも写真に撮っていたけど、
まんまる顔の大きな猫なのでオスだと思い込んでいたのだ。
いい表情が撮れたので、少し大きくプリントして額に入れ、
「かわいく撮れたのでさしあげます。」と、散歩のついでに手渡した。
「まぁ、きれいに撮れてるねぇ、写真がないから嬉しいわぁ」と言って
缶入りのお茶を「持っていき」とくれた。
名前も知らないし今度会っても顔も覚えていないけど、
散歩の途中、店の中に額が飾ってあるのが外から見えるのが嬉しい。

その2------------------------------------

毎朝、となりの塀を乗り越えて、マンションのガレージを突き抜け、道路を渡って向
かいの草むらに消えていく猫がいる。
 グレーのブチ模様、鼻のよこにもグレーのホクロ。 顔が大きくて、がっしりとし
た体格のその猫を、ボスと呼んでいた。
   ボスはいつも駐車場と空き地を散歩している。 「ボス」 と呼びかけると、ちら、
とこちらを一瞥するが、決して逃げたりしない。悠々と無視して去っていくのだった。
ある時は、ワンブロック離れた住宅街で、とてもかわいいメス猫とツーショットになっ
ているのを目撃した。なわばりパトロールの間に彼女をつくって、隅に置けないボス
なのだ。

                                

 先日、家の裏手の道を散歩していたら、 おばさんと三毛猫が庭先に出ているのを
見つけた。 近付いていくと、椅子の下やガレージの奥にいるいる、白ブチ、茶トラ、
グレー……こんなに近所に猫屋敷があったとは。
  「みんなこの近所に捨てられた猫ばっかりなの。」と、話しているおばさんのうし
ろにおとなしく座っている猫は、グレーのブチ、鼻のよこにホクロのごつい猫……。
  「ボス!」と思わず呼びかけた。
  「この子は他の人にもボスって呼ばれているわ。 いろんなところでご飯をもらっ
てるみたいやけど、毎日戻ってくるねんよ。」と言って、おばさんはボスを抱き上げ、
椅子の上に乗せた。
 ボスがここの飼い猫だったとは。あの塀はこの家の塀だったのだ。 それにしても、
なんておとなしい、いい子ぶりなんだ。 緊張ぎみに私が撫でてみると、足もとにす
り寄ってきた。
 猫かぶりなボスであった。

その3---------------------------------------

                                      近くの神社には猫がたくさんいる。

                             

 夏の間は早朝から蝉の鳴き声がたまらないほどの大音響で、さすがに姿をみかけな
かったが、寒くなるにつれてまた猫たちが戻ってきた。
 神社の猫たちは、隣の公園でドライキャットフードなどをもらっている。時折、そ
のえさを鳩たちがものすごい勢いで漁っているが、その鳩を猫が狙っているわけで、
これはこれで神社のプチ食物連鎖ができているのだろうと納得したりする。
 そのまた隣には、廃業したスーパーマーケットがあり、夏は日中の暑さと蝉の声か
ら、冬は夜の寒さから逃げるのに丁度良い猫たちのねぐらとなっている。
 寒くなると、神社は早朝からキリッと冷えた空気に包まれ、猫も小さい口から白い
息を吐く。
 冬はノラ猫にとっては苛酷な季節であるが、日溜まりを探すと寝ている猫を見つけ
ることができる、日なたぼっこの季節でもある。
 神社の猫たちは、枯れ葉の上のスポットライトのような光の中に、寄り添って昼寝
をしている。
 冬の猫は、暖かい日溜まりの中で丸まって昼寝をする幸福を満喫しているのではな
いか。体中に日光を浴び、フカフカになってうつら、うつらしている猫を見ていると、
そんな風に思えてくる。
 「冬はほんとは暖かい」と歌ったCMソングを思い出しながら、今日も日溜まりを探
している。


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