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        メールマガジン:カンバセイション・ピース
                             vol.04 2003.7.10
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みなさま、配信日が10日もズレてしまい、まことに申し訳ありませんでした。
なにしろ、がぶんが風邪で忙しかったもんですから、それに江ノ島散歩というイベン
トもありましたしね。
次号は必ず7月30日に配信しますので、よろしく。
               (がぶん@@)

◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◆もくじ◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◆
    
  ●特 集:保坂和志・ロングインタビュー・その4 聞き手:keito
       小説「カンバセイション・ピース」について
  ●特別企画:うらうら保板:枡野浩一の短歌教室 全(その1〜その2)
  ●エッセイ:「近況報告■連載お休みの弁——小説『カンバセイション・ピース』
   発売迫る」保坂和志
  ●くまさんの写真ギャラリー「そらめめ」(江ノ島編) くま
  ●ミメイさんの「江ノ島散歩フォトギャラリー」
  ●連 載:稲村月記 vol.27「江ノ島散歩」:高瀬 がぶん
  ●エッセイ:「がじんな日々」その3 高瀬がじん
  ●連 載:<ひなたBOOKの栞>BOOK08「はがぬけたらどうするの?」:けいと

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                募集します!             
     ・メルマガ版ピナンポ原稿:小説・エッセイ・論評・詩歌など
      枚数は自由(でも1万枚とかはダメよ)
     ・猫遊録掲載ネコ写真jpegでお願いします(3枚まで)    
     ・その他、なにかご意見などありましたら下記までメールを! 
              gabun@k-hosaka.com
  保坂和志公式ホームページ<パンドラの香箱>http://www.k-hosaka.com
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□保坂和志・ロングインタビュー その4  聞き手:keito

けいと■今回出てきた、森中とか浩介とか奈緒子姉とか、そういう登場人物ってどん
な風に考えたの?

ほさか■どんな感じで? うーーん、森中はさ、いそうな人間、あんまりいないんだ
けど。浩介は、実はふたりくらいモデルというか、念頭にあるんだよね。綾子は一番
ねー。たとえば、『プレーンソング』のようこちゃんとか、季節の記憶の美紗ちゃん
と一緒で、いるとも、いないとも言いにくいんだよね。モデルっていうんじゃないん
だよな。完全なモデルじゃなくて、テレビで言えばさ、女の子がまとまって出てくる
TBSの深夜の番組とか、なんだっけ? とかさ、昔で言えば、オールナイターズ、
ああいうので、全然やる気なくてぼけてる子、そういのってさ、世間にいるじゃん。
身の回りっていうんじゃなくてさ、電車の中とか、マクドナルドみたいなところで、
女の子が何人も、いた時にさ、ひとりでなんか関係ないっていうかさ、で、そういう
ところから、とってんだよね。で、その従姉兄たちってのは、割合ね、おれの従姉兄。
ゆかりはねー、いない。

けいと■いない? ほさかさんの姪ッ子じゃないの?

ほさか■そういう子じゃないんだよね。あのね、なんかね、最初ね、誰かね、ヒント
にしようと思ってた人がいたんだけど、そうでもないから、まあ、ゆかりが一番あり
がちな子だよね。
★このつづきは→ http://www.k-hosaka.com/merumagaK/vol.04/inta04.html
______________________________END______

■うらうら保板: 枡野浩一の短歌教室 全(その1〜その2)
 前回の(その1)と、今回の(その2)を1ページにまとめ、当HPのコンテンツ、
 カンバセイション・ピースのページに収録(リンク表示)いたしました。
                      こちらのページへどうぞ
      http://www.k-hosaka.com/merumagaK/vol.03/masuno1.html
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■「近況報告:連載お休みの弁——小説『カンバセイション・ピース』発売迫る」
                                 保坂和志
                                 
 連載の「リアル・ロック・クロニクル」は、いよいよ第3回目に入って、私が初め
 て「ミュージック・ライフ」を買ってきて、最初のページに載っていた「追悼・ジ
 ャニス・ジョップリン」のジャニスの写真を見て、「この人、男?」と、ずうっと
 悩みつづけた話を書くはずだったのですが、いま私は、『カンバセイション・ピー
 ス』の伝道師となって(「マネージャー」とも「営業マン」とも言うけど)、宣伝
 活動に励んでいるために、エッセイを書くアタマになかなか切り換えることができ
 ないために、やむなくお休みさせていただきます。

 小説『カンバセイション・ピース』は7月25日発売。新潮社、1800円です。

 ついでに言うと、もうひとつの「少年ホサカ」の方は、「少年カフカ」なんてもの
 まで出回ってしまった、、、ということとは関係なく(本人としては昔から「カフ
 カとホサカって、なんだか似てるよなあ」と思っていたのですが)、ああいうこと
 って、どういう風なスタンスにすれば面白くなるのか、書きはじめてみたらよくわ
 からなくなってしまっていて、その方針が見えてくるまで再開できない状態にあり
 ます。すいません。小説が完成したから、しばらくはヒマだと思って、「メルマガ、
 月2回発行でいこう」とか、いろいろ考えたんだけど、全然ヒマじゃないために、
 何もできない状態です。すいません。

 そういうわけで、小説『カンバセイション・ピース』は7月25日発売。新潮社、
 1800円です。安い! 安すぎる! だって、あんなすごい本なんだよ。

 というわけで、お詫び(?)に、次の小説の導入として考えていることをひとつ書
 きます。

 1987年4月。僕のカノジョのみっちゃんが、生まれて間もない子猫を拾いまし
 た。いまのペチャです。

 当時カノジョが住んでいたマンションは猫が飼えず、僕のアパートは狭すぎました。
 87年といえばバブルの上昇期で、不動産は買うのも借りるのも圧倒的な売り手市
 場。猫を飼っていることなんかがバレたら即追い出されかねないような、人間味の
 ない時代でした。犬や猫に対する“愛”や“ケア”も、いまよりずっと貧しい時代
 で、ペットフードなんかのブームも、それより後のことです——みなさん、そうい
 う時代があったことを忘れないでください。僕が何度も何度も書いていることです
 が、犬や猫の権利なんてホントに認められていなくて、全体としてそうだったから、
 小説の中で猫を書いても、必ず「この猫は何のメタファーなんだ」と言われつづけ
 た。そういうことは全体としての「人間中心主義」と深く関係しているんです(し
 かも「人間しか大事にしない思想」というのは結局、人間も大事にしない)。

 で、当時カノジョは高田馬場、僕は西武池袋線の中村橋に住んでいたんだけど、探
 せども探せども、「ペット可」の物件がない。もうホントに情けなかった。世間全
 体からいじめられているような気分だった。毎日、「週刊住宅情報」と「アパート
 マンション情報」を見て、打ち合わせと称して会社を抜け出して物件を見に行った
 んだけど、家賃高騰で、4、5年前の家賃では今よりずっと狭い部屋しかない。や
 っと大丈夫そうだと思って、契約しかけると、わざわざ「特約事項」という別紙が
 出てきて、「ペット禁止」と書いてあったりする。

 で、本当にようやく見つけたところが、渋谷から東横線に乗って横浜にだいぶ近付
 いた、菊名にあった分譲マンションの賃貸だった。菊名って、急行で行って横浜の
 手前の最後の停車駅です。でも、まわりに店なんかあんまりなくて、外食の多い2
 人はどうすればいいんだっていうような感じではあったんだけど、猫には代えられ
 ない。

 大家さんっていうか、その分譲マンションの一室の持ち主であるところの貸し主が
 別のフロアに住んでるんだけど、貸し主自身も猫を飼っていて、僕たちが「猫、飼
 ってるんですが、、、」と言ってみたら、もうメチャクチャ人がよさそうというか、
 世間知らずのお嬢さんがそのまま年をとったような奥さんが、

「あら、まあ、どんな猫ちゃんなの? えっ! まだ2ヵ月なの? かわいい! 私
も早く会いたぁい!」

 という調子で、旦那さんは横で苦々しい顔をしたんだけど、あっという間に「猫、
 OK」ということになった。

 5階建てだったか6階建てだったか、それくらいのマンションの最上階の部屋で、
 その部屋だけ変わってて屋上のペントハウスみたいなのもついてる。それで、「も
 うちょっとゆっくり見させてもらっていいですか」なんて言って、カノジョと二人
 で、しばらくその部屋にとどまって、中を見回しながら、住み心地を想像すること
 にした。そしたら、部屋の隅に猫砂がひとつ落ちてて、「あ、前の人も猫飼ってた
 んだあ」なんて思ったのもすごくうれしかった。

 「ペントハウス」と言ったけど、もうちょっとちゃんとした部屋で、住むとしたら
 むしろその部屋の方がメインになるような感じだった(でも、たしかプレハブみた
 いな建材だったんだけど)。とにかくその部屋にしばらくいて、下の道から聞こえ
 てくる車の騒音が大丈夫か考えたり、猫が落ちたりしないか考えたりしながら、3
 0分くらいいて、でもとにかく晴れて猫と一緒に暮らせる部屋が見つかって二人と
 も嬉しかったから、「ここにしよう」ということになった。

 それで、貸し主の夫婦と一緒にあらためて不動産屋に行ったんだけど、当時はただ
 「住みます」という意思表示をするだけではダメで、「手付金」というものを払わ
 なければならない。だいたい1日あたり5千円から1万円が相場で、正式な契約日
 まで手付金で借り押さえしておかないと、他の人に決められても文句が言えない。
 もちろん、こっちも極力その日を先に延ばして、正式な契約までにもっといい物件
 がないか探すわけだけど、延ばすにしても1週間が限度で、「手付けはまあ、3万
 か5万ぐらいが相場ですね」って言われて、僕は、つい、高い方を払ってしまう。
 気が弱いって言うか、、、3万でいいのに。

 で、とにかく手付けを入れて、やっとひとつ場所を確保できた安堵感はあるんだけ
 ど、いかんせん商店街が貧弱で、「うーーん」「うーーん」って悩みながら、二人
 でまわりを見て歩いて、それでも「まあ、あって良かった」って言って、で、東横
 線に乗って帰ることになるんだけど、電車が渋谷に向かってホームから出たときに
 マンションのある場所を見たら、それがちゃんと見えた。

 突然見えたわけじゃなくて、マンションにいたときに「あそこに駅が見える」って
 いうのを確認していたから、電車からも見てみようと思ったわけだけど、去ってい
 く電車から見えるのって、なんかすごく感動がある。「あそこに住むんだなあ」っ
 ていうか……。どういう種類の感動かわからないんだけど、とにかく僕はそういう
 ことに妙に感動してしまう。。。ちらっと、一瞬見えただけで、すぐに他の建物に
 邪魔されてすぐに見えなくなってしまったんだけど、とにかくちゃんと見えた。

 しかしところが、やっぱり菊名は遠すぎるっていう理由で、手付金を無駄にしてし
 まって、結局、世田谷の羽根木で、管理なんか何もしてないボロいマンションを見
 つけて、『猫に時間の流れる』と『東京画』の舞台になったそこに住むことになっ
 たんだけど、僕はいまでも東横線に乗って、電車が菊名の駅を出て行くたびに、あ
 のマンションを見て、

「あそこに住んでいたかもしれなかったんだなあ」
 って、思う。

 電車からあそこを見ると、いつも、若かった自分とカノジョがペチャと一緒に住ん
 でいるような気がしてくる。

 2匹目のジジはカノジョの友達が拾った猫だから、あそこに住んでいてもジジは飼
 っただろうけど、チャーちゃんとは出会わなかった。チャーちゃんは羽根木で拾っ
 たんだから。

 でも、全然出会わなかったら、「チャーちゃんと出会わなかった」ということすら
 考えない。

 「××と出会わなかった」という考えすら持たない猫や人がいっぱいいる。別の人
 生を歩いていたら出会った猫や人のことを、僕は(というか誰だって)想像するこ
 とができない。今日電車に乗って隣り合わせた人が、別の人生だったら、「あっ!
  久しぶり」と言っていた人だったかもしれないけれど、そんな仮定を現実の人生
  では絶対に検証することができない。

 「出会わなかった」ということの不可解さ。

 でも、それもまた言葉で説明できてしまっていて面白さが半減する。というか、人
 に伝わりやすいシチュエーションを考えるほど、不安定で不可解なものから離れて
 しまう。僕が東横線からあのマンションをちらっと見るときの気持ちは、もっとず
 っと漠然としている。その漠然としているところが、一番底が抜けているような気
 がする。本当に言葉にならない。もちろん、パラレル・ワールドとかそんな正式な
 名前がついてしまったら、面白さは半分も立ち上がってこない。ただ見える、あの
 数秒間が、そこだけがやっぱり一番わけがわからない。——という、そういう小説
 です。
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 ●くまさんの写真ギャラリー「そらめめ」(江ノ島編) くま
  
            こちらへどうぞ
               ↓
http://www.alles.or.jp/~takako9/sorameme030707/sorameme_top.html
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 ●ミメイさんの「江ノ島散歩フォトギャラリー」
            
            こちらへどうぞ(URL長ぇ〜〜〜!)
               ↓
http://photos.msn.co.jp/viewing/album.
aspx?m7A!X9U3q6bynoZEhFj0U2ARMa8vYUbRUSb!YDIOYMN5TGtYEhqp!hNRWhtI!gQPs
MHTJHzAf2YbDTPHzOb*mUC6*yisTCToFDhXGEqXVZprQq*FRBue1w$$
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■稲村月記・vol.27 「江ノ島散歩」 高瀬 がぶん
  →http://www.k-hosaka.com/gekki/gekki27/gekki27.html
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■連載:「がじんな日々」その3 高瀬がじん

高校の時の番長も俺も、二人で将来やくざになるのだけはよそうな?そう誓い合った
仲だった。やくざなんか人間のクズだ。あんなもんになるんなら土方でもやった方が
ましだと、そんなことをよく話し合ったこともある。しかし、その言葉とは逆に、毎
日毎日やくざに近づいて行くのはなぜだろう(?)という不安もあったが、意思さえ
強ければ流されることは無い。などと自分達に言い訳しながらその日その日を楽しん
でいた。
学校帰りには制服のまま藤沢南口にある、ある暴力団事務所に遊びに行ったりもした。
同級生の叔父さんが組長で、行けばコーラやジュース、寿司の出前に小遣いまでくれ
る待遇だ。おまけに組長直接の関係者という事で若い衆はやけに親切で居心地も良い。
週に一、二回はその事務所に通い、飲み食いをして遊んでいたのだ。勉強も中途半端
になり、部活も中途半端、毎日が不良になる為の修行をしている様なもんだ。そんな
素行が噂になり、学校では今まで威張っていた先輩がなぜか優しくなったり、俺と反
目(敵対している存在)になっている連中は視線を合わせない。ある意味迫が付いて
いた。俺は思った。・・・なるほどぉ〜。やくざって水戸黄門様の様だな。なんて。
ある日、学校帰りにいつもの事務所に遊びに行くと、既に番長が居た。「なにやって
んだよ」と声を掛けると、「掃除」と答えた。俺は、こいつ嵌ったな・・・と思い、
そんなことやってると若い衆みたいだね?と冗談で聞いたつもりが、「てめー、ふざ
けんなよ!」とやけに本気で怒っているのだ。俺は余計に心配になったが、後で聞く
と若い衆から小遣いを貰ってバイトしてたらしい。しかし、その時俺はこいつが将来
やくざになることを予感していたのだ。俺自身の将来には気が付かないまま。振り返
れば、俺はプロサッカー選手を目指して小学校から明けても暮れてもサッカーばかり
やっていたのだ。しかし、そもそも高校へは行かずに中学を卒業と同時にブラジルへ
留学する予定だったので、なんだか高校の運動部では気が乗らないというか、情熱も
冷めかけていたのだ。高校二年の5月に中退して、なんとか夢のブラジル留学を果た
したが、突然高校を中退して留学することができる切っ掛けというか原因となったの
は、ある女の存在だった。俺は高校一年の後半、女問題で訓告処分を受けているのだ。
理由は、女が家出をして来て、一人暮らしのマンションに女を泊めたことを女の親が
わざわざ学校へ報告したことだった。俺の家はちょっと複雑な家庭環境で、高校生の
分際でマンション暮らしをしていた。もちろん、その当時の親父は会社を経営してい
て、俺も兄のがぶんも育ちは決して悪い方ではない。ブラジルだって才能だけで行け
る訳ではないのだから。俺と兄のがぶんは腹違いの兄弟なのだが、兄弟四人のうち一
番仲が良い。というか、話しが合うのだろうと思う。子供の頃から実家が二つあり、
がぶんの家(高瀬の本家)と、俺のお袋の家があった。俺達は一つ屋根の下で育った
兄弟ではないが、ちょくちょくがぶんのに遊びに行っては、婆さんに小遣いをたかり、
がぶんと一緒に裏の駄菓子屋へ当てくじをしに行ったもんだ。俺が幼稚園、がぶん中
学二、三年生の頃だったと思う。その頃からがぶんが博才があり、あんまり当てくじ
を当てるものだから、裏の駄菓子屋に、「そんなに当てるんなら、もう来ないでくれ
!」と、出入り禁止になっていた。そんな具合に、がぶんとは仲が良いのだ。姉は気
が強くヒステリーぎみなので昔から避けていた。弟はどちらかというと無愛想で、今
でも変わらず無愛想だ。そんな中で、分裂した高瀬の本家とお袋の家の友好関係を保
つパイプ役が、俺と兄のがぶんと言えよう。姉もお袋も性格が良く似てるもんで、ど
う考えてもウマが合わないのだ。
・・・話しは逸れたが、そんな訳で、今考えてみるとその女と付き合って俺の運も低
迷していったのだ。恥ずかしながら、俺はその女は初めての経験だったのだ。今思う
に、その頃は純粋で女に左右されることが多い年頃なので、やっぱりブラジルへ行く
のなら女を知らないうちに行くべきだったのだ。女さえ知らなければ日本に未練を残
すものは何も無い。人生なんてものはどこで歯車が狂うかわからない。俺の場合、明
らかに中学卒業と同時に狂い始めたのだ。そして、俺は迷わず女に突っ走った。・・
・やくざの世界と女・・・まさに堕落の代名詞だ。
うちの家系はみんな酒が飲めないので不幸中の幸いで、良くクラブのホステスに「お
酒強そうな顔してるのにね?」と言われるのだが、俺にはさっぱり意味がわからない。
どうせなら喧嘩強そうな顔・・・とでも言って欲しかった。(余談だが)そんな状態
で半ばヤケクソになっていた俺は、ある日その女と家出した。・・・家出先は、江ノ
島のホテル街にある「ささりんどう」という連れ込み旅館だ。今考えると車で30分も
あれば行ける場所で、ちゃんちゃら可笑しい話だが、その頃は真剣だったのだ。真剣
だったのは俺だけではない。友達(子分の様な)は、俺のその家出のためにバイクま
で売って金を工面いてくれたりしたのだ。今考えるとそいつも充分馬鹿な野郎だ。た
った30分のところに宿泊に行くのにバイクまで売ったんだから俺より馬鹿であるに違
いない。やくざの組長の甥っ子だ。
俺は女とその連れ込み旅館に何日か住んでいたのだが、ある時追っ手が迫った。
※がぶんと親父である。まるで刑事の聞き込み捜査の様に、旅館のおばさんになにや
ら聞き込みをしていた様子だった。俺は、旅館の二階の部屋の窓からそっと入口付近
を覗いてみると、がぶんと親父が、テレビドラマの刑事の様な雰囲気を漂わせ、二人
で何やら話していたのを目撃したのである。その時!親父のコートの襟は立っていた。
(意味不明)そんな家出も数日限り。
金も尽き、とうとう家に出頭したのだ。俺は女のために夢を諦めようとしていた。
・・・夢を諦めかけていたからこそ、その女に執着したのだろう。・・・また、女は
自分自身の実家が窮屈な家で、特にお袋さんが勉強!勉強!とうるさ過ぎる。そんな
家庭に限って親父はほぼ自閉症であるのだ。俺は、いつの間にか行きたかったはずの
ブラジルが、行かなければならないブラジルへと変わっていたことに気づいた。
                  つづく
※がぶん注:旅館の玄関に私と父が入って行くと、おかみが出て来て私と父を眺め回
 し、「ご休憩ですか?」と尋ねたのだ!!! ちが〜〜〜う!! その様子をがじ
 んはこっそり見ていたのだった!!
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■連載:<ひなたBOOKの栞>BOOK08:けいと

「はがぬけたらどうするの?」(フレーベル館) セルビー・ビーラー文 
 ブライアン・カラス絵 こだまともこ訳
 
トゥースキーパーやトゥースボックスって、ヨーロッパの雑貨屋さんとかではよくみ
かけるのに、日本では、あんまりなじみがないよね。名前さえ聞いたことがない人も
いると思うんだけれど、それは抜けた乳歯を入れておく容器のこと。まあ、こどもの
成長の記念にとっておくということだと思うんだけれど。小さなテディベアやお人形
が蓋についたものとか、銀や錫に細かい細工を施したちょっと高級っぽいものなど、
いろいろあって値段も手頃なので、コレクションする人もけっこういるみたい。わた
しは長女が生まれる前だけど、ロンドンにいる時、あまりにかわいいので木製の妖精
がついたトゥースキーパーを買った。その時は、歯を入れておくなんて思いもよらず、
あとで、箱書きの文字を見て、なーんだ、そうだったの!と気がついた。
今その中には、長女の乳歯が12本と、猫のライムの乳歯が1本入っている。ライム
のは、彼のベッド(と言っても、ただ単に、古いバスタオルがしいてある場所のこと
なんだけれど)に、偶然落ちているのをみつけてとっておいたもので、その後も、ま
た落ちていないかなーと、毎日、目を凝らして見ていたんだけれど、猫の抜けた乳歯
をみつけたのは、これ一本きり、タバサもいつのまにやら、はえかわっちゃっていた。
ライムの乳歯は長さが5ミリくらいで細くてとんがってて、なんかちょっと釣り針み
たいで、かっこいい。
人間のこどもの場合、知らないうちにはえかわっていたなんてことは、そんなにない
けれど、次女の上の前歯二本は、わたしの知らないうちに、抜けていた。と言うより、
抜いてもらっていたというのが正しいのかな、あれは、幼稚園の年長6才の時、歯科
検診で、奥歯に要注意歯があったので、こども専門の歯医者さんに行った時だった。
物怖じしないタイプの次女は、他の幼稚園生がわんわん泣いているのを尻目に、「ひ
とりでも大丈夫だからね」とニコニコ顔で診察室に入っていった。それで、出てきた
時には、前歯二本がなかった。もちろん泣いたりもしていなかったんだけど、麻酔が
かかっていてよくしゃべれないので、かわりに歯医者さんが説明してくれた。「奥歯
は虫歯止めを塗っておいたので大丈夫です。それから、、前歯二本ぐらぐらしている
ので、抜いちゃってくださいと、本人が言うので、調べましたら、もうすでに下のほ
うから、大人の歯もはえてきているようなので抜きました。普通はいっぺんに二本も
抜いたりはしないんですけど、本人がどうしてもと言うものですから。それにしても、
こんなに平気な子は滅多にいませんよね」みたいなことを言っていた。
それで、次女は、抜いた歯を大事に持ち帰った。どうやら、次女にしてみると、3才
上の長女のトゥースキーパーにいっぱい入った歯がうらやましくてたまらなかったら
しかった。その後、抜けそうだなと思うやいなや、すぐにかたかた動かして、あっと
いう間に抜いてしまう次女、長女はぐらぐらしてから大人の歯が横から見えてきて、
もう、ほとんどとれかかって、皮一枚でつながっているような感じなので、「邪魔そ
うだから、いいかげんにとっちゃったらー」と言っても、「まだまだ」と、自然にぽ
ろりととれるまで放っておく、姉妹でも随分違うものだ。それにしても、抜けそうな
歯を見ていると、そのころの自分のむずむずするような歯の感触というか、舌触りみ
たいなものまで、ふわーと思い出しちゃうのよね。なんかすごくうきうきする感じで、
ついこどものぐらぐらの歯を触って抜いてしまいたい衝動にかられちゃうの、次女は
わたしに似たんだ、きっと。そういえば、かさぶたもそう、むくの大好き。
家の本棚には、歯にまつわる絵本が数冊ある。次女が欲しがった本ばかりで「はが 
ぬけたとき こうさぎは・・・」「トゥースフェアリー」「むし歯の問題」「歯がぬ
けた」「ロージー、はがぬける」「はがぬけたらどうするの?」、このほとんどが抜
けたあとの歯をどうするかというお話。
わたしがこどものころは、歯をとっておくなんてことはしなかった、まして、歯を枕
元においておくと、歯の妖精さんがやってきて、コインをおいていってくれたり、抜
けた歯でペンダントを作っておいてくれたりなんて、聞いたこともなかったから。た
いてい、抜けた歯は、その日のうちに、上の歯なら家の床下にむかって、下の歯なら、
屋根にむかって、何か、わらべ歌みたいな呪文みたいなことを言って、投げたものだ
った。このわらべ歌みたいな、呪文みたいなというのは、ちゃんと口ずさんでいた記
憶があるんだけれど、思い出せない。ただ、丈夫な歯がまっすぐに生えてきてくださ
いとねずみにお願いするような歌だった気がする。
トゥースキーパーの中の歯の本数は、長女に比べて、次女が極端に少ない。それは、
その箱をしょっちゅうながめてるうちに、何度もこぼして、そのたびにちょっとずつ、
減っていったのと、絵本にあるように、寝る時に枕元に手紙と一緒において、妖精(
わたしだけど)にコインとかえてもらったり、ペンダントにしてもらったり、外に投
げてみたりと、いろいろやってみたせいだ。ところで、「はがぬけたらどうするの?」
は、比較的最近買った本なのだが、抜けたあとの歯をどうするかと言う事について、
世界中の64の地域から集めた66の言い伝えや、迷信、風習などが書かれた本だ。著者
のセルビー・ビーラーはこの調査のために何年もかけて世界中を回ったそうだが、ア
メリカ先住民イエローナイフ・デネや、グルジアやモルドバのように、名前もあまり
聞かないような国まで網羅していて、大人が読んでもなかなか興味深い。
アメリカやイギリスだけでなく、世界中のいろんな地域で多く伝えられているのが、
枕元においておくと、妖精やねずみがコインに換えてくれる、「新しい歯をもってき
て」と言って、外で投げると、うさぎ、ねずみ、リス、カラスが持っていってくれて、
あとで、丈夫な歯がはえてくる、とういもの。ねずみがかかわる話が多いのは、やは
り歯が丈夫というイメージが強いせいなのかな、国によって、このねずみに名前がつ
いている。メキシコ、グァテマラは「エル・ラトン」、アルゼンチンは「エル・ラト
ンシート」、コロンビアは「エル・ラトン・ミゲリート」、フランスは「ル・プチ・
スーリ」、スペインが「ラトンシート・ペレス」だって。
ジャマイカでは、怖い牛が夜中に歯を盗みに来るから、来ないように、歯を缶の中に
入れて一生懸命振って音を出さなければならないとか、アフリカのベナンでは、抜け
た歯をとかげにみつかったら、新しい歯がはえてこないとか、アメリカ先住民ユピー
クでは、抜けた歯を肉やパンの中に埋め込んでメスの犬に食べさせて「もっといい歯
にかえてくれ」って言ったり、ちょっとユニークな話もいっぱいで、中でも一番わた
しが気に入ってるのはモロッコの迷信。日の出の頃に、「ロバの歯あげるから、ガゼ
ルの歯とかえてください」と言って、朝日に向かって抜けた歯を投げないとロバの歯
がはえてくるというもの。なんか、こわいでしょ。次女がもっと小さい時にこれ読ん
でたら、きっと、朝早くおきてやってたと思う。
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メールマガジン「カンバセイション・ピース vol.04」2003.7.10配信
発行責任者:高瀬 がぶん 編集長:けいと スーパーバイザー:保坂和志
連絡先:0467-32-4439・070-5577-9987
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