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写真家・斎門富士男氏の葉山のご自宅へ


               
             

 

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ポチ、、だれもが犬だと思ってしまうような名前でしょ。でも、このポチ、斎門さんが1600坪の敷地内に猫を飼うようになったきっかけの猫なのだ。現在、住みついてる猫たぶん30数匹(このところ、ベビーラッシュで生まれたばかりの子猫たちもいるの)。この9年間の延べ数にすると100匹を越すんだそう。
斎門富士男さんは葉山に住む写真家で、猫専門の写真家というわけじゃないけれど、去年出した写真集「CAT GARDEN」はすっごくかわいい。すっごくかわいいなんて誰でも、何にでも言えそうな表現だけど、すっごくかわいいって表現以外思いつかないほどぴったりで、憎たらしい顔でベロ出して寝そべってる子も、見たことないほど猫相の悪いケンカしたあとのポチの顔も、暗がりのベンチで交尾している二匹も、大皿で総勢30数匹が一同に介してごはん食べてる図もどれをとっても、すっごくかわいい。

 

斎門さんがこのおおきな葉山のお屋敷にすむようになったきっかけは、9年前、たまたま飲み屋で出会った不動産屋さんがこの家のことを話してくれたこと。面白い物件があってね、昔の公爵のお屋敷だったんだけど、何十年も誰も住んでいないんだけどどう?・・ということで、見にいったのだそうだ。
そのころ、斎門さんは、少し、悩んでいた、自分の仕事が確立してないんじゃないかという不安、疑問、そして、東京のスピードの中で、自分を見出せないあせり。そんな時に出会ったゆるやかな時間を与えてくれる場所。1600坪の敷地内に建つ白壁に赤い瓦屋根のお屋敷にはじめて訪れ、どんよりとしたうすぐらいその家の中に入った時、斎門さんは興奮したと言う。
こんなところ、生まれて30年間見たことない、って。家のリビングからは、広々とした海も見える。壁には泊まりにきた画家が落書きしたという絵、古びていることで、いっそうゴージャスに見えるシャンデリアやアンティークな家具や小物がどこかモダンな色合いでおさまっている。古もの好きのわたしが忘れられないのはプードルのランプ、あれ、ほしいな。

斎門さんは1960年大坂生まれ、わたしがお話を聞きに伺った日、彼は真っ赤なセーターと黒いパンツで現れた。まるで、モデルさんみたいで、はにかんだ笑い顔が繊細で芸術家って感じ。話すと、静かに優しくて、わたしが彼のホームページを読んで感じてたイメージとはちょっと違う。もっと、ぎらぎらとしたエネルギッシュな男かと思ってたから。幼い頃、おとうさんが大阪ミナミのど真ん中でひと坪ほどの小さな店、ライカやハッセルなどの外国のカメラを扱うカメラやさんをやっていたんだけれど、カメラに本格的に興味をもち出したのは二十代半ばの頃。写真学校に入ったものの、足がかりを見い出せぬまま卒業し、アメリカ、ハワイと旅に出る。

人が撮りたいのに、風景しかとれない、人にカメラを向けるのがこわくて、それでも、「なんにも撮れずに帰るか」という気概だけはあったのに。そのまま台湾に向かい、その中で暮らすうちに、なんで自分は日本じゃなくてここにいるんだろうと思った時、自分がどこにも存在してないような空虚な感じがして、空中から現実を見てるような不思議な感覚の中で、「写真がとれそうな予感」がしたと言う。老人のしわの深い表情、こどもたちの笑顔、タロ芋採りや岩ノリ採りの仕事、彼等と生活を共にし、堰を切ったようにシャッターをきりながら、「オレはこの人たちが好きなんだ」という素直な気持を感じたと言う。

その後、インド、ネパール、ヨーロッパ、イスラエル、モスクワと旅を重ね、その中で撮り続けた人間の表情が、斎門富士男の作品として世の中で注目されるきっかけとなる。
1996年、3年間に6回も訪れたという中国の人間ポートレイト「CHINESE LIVE」、1998年、世界中を旅している中で自然に撮りためた子供達の肖像「STAR KIDS」、どちらの写真集も、素朴で雄大な愛が感じられて、どの表情にも強くひきつけられるような命のエネルギーがあふれている。特に、渋谷パルコギャラリーで一ヶ月間続いた写真展「STAR KIDS」はNHKのETVでも紹介され、
60誌以上の媒体で取り扱われ、ニューヨークでも話題になった。それにしても、「CHINESE LIVE」「STAR KIDS」ともに絶版で、いまやどこをさがしてもみつからない。
でも、写真は斎門さんのホームページでちょっと見れるのだ。

             http://www.saimonfujio.com/main.html








そして、いまだにまとめきれていない沢山の旅の写真、ふりかえる時間がないというだけじゃなくて、いつかふりかえりまとめなくてはとその時期を待っていた斎門さんが今年は整理するつもりと言う。
「ひとつの旅って点として存在してるんじゃなくて、他の旅や自分自身のそれぞれの時代とつながっているんだよね。いつでも、自分の欲求に正直に旅しながら、人間や景色に出会って、いろんなものを写真を通して生み出していけたらと思ってます」

近年、斎門さんが撮り、写真集にまとめているものに今の若者達の姿がある。葉山を舞台にリアルな女性たちの表情を集めた「海岸エロチカ」や、渋谷、新宿、麻布などのクラブ、あやしげな店でト−キョ−の夜の熱気を映し出した「TOKYO CARNIVAL」や、先月発売されたヌード写真集「キモチイイカラヌグノ」には現代の若者の一面が伺える。斎門さんの内部には決してないような意識や、まっしろな面に、自分自身が反応しながら今の時代性を切り取っていけたらいいと言う。彼女たちのヌードを撮りながら、実は、カメラを手にした自分自身が彼女たちとともに解放されて行くことに気付くそうだ。何を撮りたいのか、何を感じるのか、山のようにある自分自身の感覚の中で、今この時一瞬の気持に素直にそのすべてを引き受けて、写し取れる対象にカメラを向けてゆきたいと言うのだ。

ところで、犬のような名前の猫ポチ、なんでそんな名前になったのか、「CAT GARDEN」にはそこんところのいきさつも、アートディレクターであり奥様である斎門諒子さんの気持のいいエッセイで読むことができる。最後に諒子さんの文章でしめくくり。

・・・こんなふうに誰かが、何かを毎日、起こしている。30数匹もいれば当然で、私達夫婦を驚かせたり、笑わせたり、もちろん泣かせたりする。つまり、退屈しないというわけだが、時々、疑問が土からポコンとでてくるモグラみたいに、頭の中に飛び出してくる。「いったい、私達ときたら、なんで30数匹の面倒を見るはめになっちゃったんだろう?」なんの気なしにしたことが、運命を大きく変える。そして、「あの時」というのは決まって、後から思いあたるのだ。



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