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<訪問> 産婦人科医 対馬ルリ子

 


 

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今回、産婦人科医であるルリちゃんから、話を聞くということで、あらためて彼女の近頃の仕事をチェックした。彼女は実際に臨床医として月に300時間以上働き、週にニ回は当直をし、そのうえで、NHK のテレビ出演、LEE,クロワッサンその他の雑誌の取材を受けるだけではなく、定期的に専門誌の執筆もこなし、また、1997年に発足された「性と健康を考える女性専門家の会」の副会長としての活動もはんぱじゃなく忙しくって、しかもふたりの子持ち。毎日、化粧をおとすひまもなく朝をむかえるのもざらというルリちゃんとは20年来の親友なんだけれど、思えば、学生の頃から、彼女は超多忙だった。ロックバンドのキーボードをやってて、派手なスポーツカーにのって、いつも男の子をひきつれて遊んでいたことも忙しさの原因ではあったけれど、彼女は、10代の医学生の頃から信じられないくらい、女性の性のついて問題意識をもっていて、20年前の「性教育研究」という専門誌の座談会に出席して意見を言っているルリちゃんの言葉は、今のわたしが読んでもスカっと明快なんだよね。

女性のからだ、女性のからだ、とことさら言うのは、なんだか、男性のからだを無視してるみたいだけど、でも、なんといっても、女性のからだの一生は変化がおおきい。まず、初潮にはじまって、閉経に至るまで、一ヶ月にいっぺん、排卵があり、一定期間出血して、もちろん、それにともなってからだのなかでは確実にホルモンの変化も起こっているんだから。そして、からだにとっては、妊娠出産なんていうのも、相当おおきな変化だし、更年期障害や月経異常などの女性にしかないトラブルもけっこう深刻なんだもの。やっぱり、これはどうしたって、女性のからだのほうが男性よりは複雑なんじゃないかしら、ね。
それにしては、日本では女性のからだを一生を通じてケアし、安心して相談したり、実際に診てもらったり、避妊や病気についての知識や情報をたしかなものとして知る機関が少ない。4月下旬にシドニーで開かれた「世界女医会議」に出席して、先進国であると言われる日本が、そういった意識を含めた実情に関しては非常に立ち後れているということをあらためて感じたと、彼女は言うのだけれど、社会のシステムはもちろんだけれど、ひとりひとりの意識も問題なんじゃないかってことなのだ。長い歴史の中で女の人はこどもを産む存在として、当然のように弱い立場でもあり、そのために庇護され、教育されなければならないということが大前提としてあり、こどもを産む産まないに関して、人に決めてもらう状況を受け入れて生きてきた。また、いくら社会進出が進み、そのなかでの女性の立場が改善されているように見えていても、こどもを産むことを含めてトータルに女性がライフステージの中で自分のやりたいことをやれるかというとそうでもないのだ。もちろん、なにがなんでも、自分のやりたいことをやっていくなんて、男性だって女性だって無理な話ではあるけれど、もし、仮に、同じように働いているカップルに、予定外の時期に、こどもができたとする。もし、こどもを産まない選択をするとしたら、中絶という肉体的にも精神的にも大きなダメージをうけるのは女性であるわけで、また、産むという選択をした場合にも、そこで、会社をやめたり、仕事を中断することによって、それまで培ってきたキャリアを保つことが難しい状況となるのだ。望むと望まざるとにかかわらず、男性よりはずっと、自身のからだとやりたいことのはざまで重大な局面を迎える可能性があるわけなのだから、まずは女性自身が、早い時期から性に関して自己決定するトレーニングをしていかなければいけないのだと、彼女は言う。そのためには、妊娠はもちろん、避妊の知識が必要である。

現在、性行動を開始する年令はぐーんと下がり、高3男女でセックスの経験率は約4割となり、避妊については、はじめてのセックスでは5割近くがしているが、2回目以降は2割程と大変低くなるというのだ。しかも、セックスや避妊に関する情報は雑誌やテレビなど、不確かなものが大半を占めている。
「学生の頃、医学部生だって、射精したあと、コーラで中を洗えば大丈夫なんて言ってる人もいたしね。でも、医学部の授業でさえ避妊についてのたしかな教育ってなかったと思う。産婦人科医になって、はじめて知ったことっていっぱいあるもの」
今、10代の人工妊娠中絶は過去最高で一年間で100人にひとり! 10代後半の5年間ではなんとなんと20人にひとりという計算になるんだって。これはちょっとおどろきなんだけれど、今、若者の間を中心に爆発的に流行してきているSTD(性感染症)についてもショック! STDとはセックスで感染する病気、性感染症のことで、昔は梅毒や淋病なんてすごくこわがられていたけれど、その他にクラミジア、性器ヘルペス、尖形コンジローマ、トリコモナス、カンジダなど、B型肝炎、HIVも含まれる。性病というのは男の病気みたいな感じがあったけれど、今、STDというと女性の病気と言われるくらいおびただしく増加しているんだそうだ。もちろん、セックスで感染するわけだから男性もおなじように感染するんだけれど、女性のほうがその症状も、治療もやっかいで、とくに、クラミジアなんて、あんまり症状がないから症状がでたときにはもう、かなり深刻な状況になっていたりするのだ。彼女の病院でも、年に何回か、激しい腹痛で救急車で運ばれてくる女の子がいて救命センターの医師は開腹せざるをえなく、30センチも切った挙げ句、卵管や卵巣を摘出するケースも少なくないんだって。原因はクラミジア菌による腹膜炎。というと、クラミジアってものすごい菌のようだけど、実はSTDのなかでもかなりポピュラー、早期に気付けば、2週間ほど、抗生物質を飲んだだけで、比較的簡単になおっちゃう。症状も、ただおりものが多くなるとか、ちょっと下腹部痛がある程度で、男の子なんて、それよりもっと軽くて気付きにくいから、気付いてからでは遅かったと言うことになるのだ。それに、クラミジアだけでなく、STDに感染していると不妊症になりやすいばかりか、妊娠しても、異常出産となるケースもあり、B群溶連菌という細菌などは、赤ちゃんに感染すると重症肺炎や敗血症をひきおこし、数日で死亡することだってあるそう。
それにしても、そういったことで、開腹したり、中絶する女の子に、実際、彼女が診た中でも12,3才の子がいるそうで、彼女自身、そういう子たちに倫理観や道徳観をうんぬんするつもりは毛頭なくって、とにかく健康面のことだけで、避妊、STDについての知識を持ってほしいと言う。
「STDに関して、男と女の状態に違いが出てくるのは、生殖器が外にむかっているか、中にむかっているかってことが大きくて、膣の中で射精するってことは精子が入ってくるだけじゃなくって、精液のなかにある病原菌も一緒にってことで、それは、膣のなかで止まるわけじゃなくて、膣を通って、卵管を通り、卵管はからだの内部へ開いているわけだから、そこからダイレクトにからだのなかに入り込んでくるってことなの」

もちろん、セックスを含め人間が触れあい、種の命を紡いでいくことは生物そのものの運命であり、すばらしくよろこびに満ちたものであるわけなのだから、セックスに対して、触れあうことに対して、神経質になりすぎることは無意味だけれど、ある意味で、セックスというのは相手がもっている病原菌をも引き受けることなんだという意識で、避妊やSTDについて早い時期にこどもたちに、教えた方がいいと彼女は言う。実際、彼女はふたりのこどもに割と早いうちから、性について、話して聞かせているそうだが、先日、「性と健康を考える女性専門家の会」が中心となって企画して製作された「避妊」というビデオを見せたところ、中2の長女は「お友達で複数のセックスフレンドがいる子がいるんだけど、ママ、病気になったらたいへんだから、その子に教えてあげて」と言ったそうだ。
わたしもそのビデオを見て知らないことが多いのに驚いたのだが、最近、許可されたけれど、正確な情報よりも、不安をあおるような情報が先行しているピルについても、話を聞いていて認識をあらたにさせられた。
「わたしたちのおばあちゃん達くらいの時代までは、女性の一生涯に排卵される数は今よりずっと少なかったのね。初潮年令もおそかったし、こどもを産む人数も多いから妊娠出産授乳時期は排卵しないわけだし、閉経も今より早かったから、せいぜい50個。それが今の女性は生涯400個くらい排卵し続けることになるの」
実際に排卵直後の卵巣を見てみると、はっきりと卵巣がやぶれているのが見えるそうなのだが、排卵というのは、卵巣の壁がぱしゃっと破れて(排卵時に出血するという人もいる)、卵が、おいでおいでをしている卵管に向かっていってその中に入ることなのだ。それが、自然な生理とはいえ、なんども、破れて傷が修復するということを繰り返すと、その部分は癌化しやすくなる。排卵をなくすことで、卵巣癌の発生を40パーセントも抑え、子宮体癌、不妊症、骨盤内感染症にも効果があるのだそうだ。ピルが避妊のためだけでなく、使い過ぎの卵巣を癌化させないこと、更年期障害や骨粗鬆症などの予防、ひいては美容に役立つということなど、正しい知識に基づいて個人が自分の生活やライフスタイルにあわせて選択できるシステムを作っていきたいと彼女は言う。
「アナルセックスはよくないとか、不特定多数の異性とつきあうというような性の乱れを正そうとかいう道徳観にふれることではなく、正しい情報を取り込んでいく過程のなかで、性に対する考えや行動を自分自身で決められるといいよね。すくなくとも、知ることで取り返しのつかない病気や事態を避けることができる場合も多いんだから。女の子はリスクが大きいからね、なにか変だなと感じたら、気軽に産婦人科にきてくれるといい」
ほんとに頼れる存在だなあと思う。それは二十年前からちっとも変わってないんだけれど、今では沢山の人がそんな彼女に診てもらおうと病院を訪れる。取材日も、外来がある日は全く時間がとれないからとそうじゃない日を選んだのだけれど、朝から3件も緊急オペがあり、話を聞いている最中も頻繁に携帯電話にポケットベルが鳴る。結局、彼女はまた手術室に呼び出されて、お昼も一緒に食べられずに、急いで行ってしまった。
わたしは彼女のからだが心配です。

*STDに関してもっと知りたい場合はルリちゃん監修の「STD(性感染症)」池田書店発行を読んでみてね。
 ルリちゃんも載っていて「女性のための女医さんガイド」法研発行、これはすごく役にたつ。
 


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