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◆◇◆    メールマガジン【いなむらL7通信】 第10号      ◆◇◆
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                        2001/12/20 vol.10
              
いやぁ、今年は色んなことがありました。
と、もっともらしく言ってはみたものの、
色んなことがなかった年なんてなかったわけで、
来年もきっと色んなことがあるでしょう。
そんな中で今年最大の出来事といえば、「いなむらL7通信」的には、
とりもなおさず当メールマガジンが創刊されたことで、
それがもう10回も続いているっていうのだから、
びっくりしたなぁもうじゃあ~りませんか!(ダブル死語)
これもすべて皆さんのご支援のおかげです。、
これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します。
また、クリスマスやら年末年始やらを控え、なにかと馬鹿騒ぎするこの季節、
同時多発ゲロとかにならないよう、どうかお体を大切に。
それではみなさん、メリークリスマス&よいお年を。
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■■■          芥川賞作家・保坂和志公式ホームページ       ■■■
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★☆★----------もくじ--------------------------------------------★☆★

■今月の特集*********************
■連載【小説論番外篇】vol.10「記憶の消滅」 保坂和志
■ゲスト劇場・第七回「チイさなことからコツコツとvol.02」 by/ちい
■今月の【わたしのオススメ】(オススメ人)
 ◆乗り物:『車を運転すること・車内という空間』(いそけん)
 ◆ラーメン店:とんこつラーメン『田中商店』 (サムソン)
 ◆中国茶:中国紅茶「正山小種」 ティーギャラリー陀陀舎(ぐら)
 ◆カフェ:YonchomeCafe<カフェ・高円寺>(ごい)
 ◆漫画:漫画■『るきさん』・高野文子(みぞれ)
■新連載【はやねはやお記】#2・by/おくい
■「稲村月記」vol.08 高瀬がぶん
■連載【興味津々浦々】vol.10「ジャパニーズ・ガウンの巻(9)」春野景都
■編集後記
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                ★次週特集予告★2002/01/20 配信予定
          さー、今のところ未定です。
     どんなものになるのでしょうか?  おたのしみに!
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■連載【小説論番外篇】vol.10「記憶の消滅」 保坂和志

 このあいだ日曜日深夜の『NHKアーカイブス』という、むかし放送された番
組を掘り返す番組で、『タイムトラベラー』の最終回を放送した。筒井康隆原作
のこの少年ドラマはその後も大林宣彦によって『時をかける少女』として映画に
もなった、忘れられない大ヒット・ドラマなのだが(時が経てば忘れられてしま
うヒットだっていっぱいある)、どういう事情か信じられないことにNHKは、
このドラマのフィルムを紛失していて、一般視聴者が録画していたビデオテープ
を元に、画像を復元していたので、一部画像がゆらゆら揺れていたりもした。こ
のドラマが放送されたのは、71年だったか72年だったかなので、「一般視聴
者」といっても当時ビデオを持っていたのだからただの「一般視聴者」ではな
い。「しぶんのさん」と言われていた、つまり3/4インチのビデオ器材は当時
百万円ぐらいしたのではないだろうか。ついでに言うと、その当時、電卓の第1
号器も単純な四則計算しかできないのに1万円以上したのだ。
 余計な話はともかく、『タイムトラベラー』は700年後の未来から間違って
来てしまった未来人ケン・ソゴルが一定期間私達の住む現代にとどまることを余
儀なくされて、未来に戻る薬が完成して去っていくという話だが、未来の人間は
過去を変えてはいけないという規則にしたがって、ケン・ソゴルが去った後は、
彼と関わりを持った人たちの記憶から彼は完全に消える。彼に淡い恋心を抱いて
いた女の子の中にも彼の記憶は残らない。――そう聞いて、当時中学生だった私
の気持ちがとても複雑になったことは言うまでもない。
 私は本当に文学作品を読まない子どもで、私が小説を読むようになったのは高
校生になってからだった。先月の友里千賀子のインタビューで千賀子も私が本を
読まない子どもだったと言っていたし、うちの奥さんも何かあると必ず「ホント
に何も読んだことがなかったのねえ」と感心したりあきれたりしている。
 後発だったので私はいきなり現代文学を読み始めた。「記憶」の問題は、現代
文学の主要な題材のひとつだけれど、現代文学で扱われるとき、記憶は記憶で
も、「記憶の不確かさ」であって、「記憶の消滅」ではない。いまでこそ、アル
ツハイマーや前方性なんとか障害という、ある時点を最後にそこから記憶が蓄積
されない障害とか、記憶の消滅が社会的に問題とされるようになったけれど、ほ
んの数年前までは社会的にも「記憶」といったら「不確かさ」であって、消滅な
んて劇的なレベルは、想定外(?)の事態だった。
 私の書く小説が広く受け入れられないのは、いま普通に書かれている小説と関
心を共有している度合いが低いからだと思っているけれど、その起源は中学生ま
での小説を読まなかった時期に持っていた関心が結局、文学が普通に問題にする
こととクロスしないということにあるのではないか……。と、そんな風に、自分
の関心の源流を発見したりすると、現在の自分の小説の位置づけと照らし合わせ
て考えてみるのが、職業作家としての私の癖のようなものだけれど、私は『タイ
ムトラベラー』以前にも、「消えた記憶」に出合って複雑な気持ちになって、複
雑すぎて何も言葉が出てこないということを何度か経験していて、その一つが小
学校3年のときに読んだマンガの(アニメでなく)手塚治虫の『W3(ワンダー
スリー)』のラストだった。
 宇宙から来た、ノッコ、プッコ、ポッコの3人は、地球をとても好きになり、
自分の星に帰らない結論を選ぶ。ここでもやっぱり、ノッコ、プッコ、ポッコの
3人は、地球人の体になるのと引き換えに自分たちの記憶を失うのだが、ひとつ
だけ臍を作り忘れるというミスを犯す。自分たちが地球人ではないことを本人た
ち3人も知らないし、その村に住む誰も知らない。しかし、酔っ払いの医者だけ
が、臍がないことを知っていて、「もしかして……」と思う。マンガはそこで終
わり、小学生だった私は、
「…………」と、ただ言葉にできない気持ちになった。
 文学的(心理学的か?)に解釈してしまったら、それは「幼年期(少年期)が
終わることの怖れ」というようなことで括られてしまうかもしれない。だからこ
そ文学でなく、マンガや少年ドラマで頻出するモチーフなのかもしれない。確か
に子どもから見て、大人は子ども時代の痕跡をどこにもとどめていない別の種類
の人たちに映る。高校生から見ても大人は別のヤツらで、自分の延長線上に彼ら
彼女らがいるとは実感しがたい(このことにしつこくこだわったのが『残響』で
あり、とりわけ「コーリング」です。中公文庫、好評発売中!)。
 しかし、そういう解釈を抜きにして、「記憶が消える」というのは、胸の中で
何かが騒ぎ、その胸の中で起こっている事態の大きさにかかわらず、言葉が見つ
けられない、という特別なことなのだと思う。

 記憶についてのいろいろなことは、あれこれ思いを巡らせるよりも、それを考
えるきっかけとなる具体的な何かを提示する方が断然おもしろい。ごく簡単な具
体性でじゅうぶんにおもしろい。実際の症例や事件は当然おもしろいが、『タイ
ムトラベラー』や『W3』のような、露骨なフィクションであってもものすごく
おもしろい。
 もう何度も書いたことだけれど、『アウトブリード』を出して以来、保坂和志
に対する風向きが急に変わって、思索的だったり哲学的だったりするエッセイの
依頼が増えてしまったけれど、提示された具体性に対する感受性が人間にとって
一番大事な能力で、エッセイを読んでわかったと思う人は、エッセイを読まなけ
ればわからない人である場合がほとんどで、そういう人を相手に話していると感
受性・想像力・妄想力そして理解力の乏しさにイライラする。
 理解してくれる人が少なくても、やっぱり私は小説を書きたいと思う。できれ
ば小説だけを書いていたいと思う。
 雅子さんが子どもを出産して、小和田家のお母さんが「雅子さま、おめでとう
ございます」と、親子であるにもかかわらず皇室に対する敬語で祝辞を言ったと
き、私はかつて、雅子さんが結婚する前の悲しみを想像したことを思い出した。
皇室なんかに嫁いでしまったら、もう二度と歩き馴れた道を歩くことができなく
なる。なんだかそれは「死」のイメージに近い。このことは『残響』のなかで堀
井早夜香が彩子の言葉として思い出す。
 それはともかく、そういう雅子さんは、「かぐや姫」に似ている。『かぐや
姫』は、かぐや姫が月に帰っていくことを帝でさえも阻止できなかった話だけれ
ど、あの話は本当は、「帝に嫁ぐことはある意味で死を意味する」ということを
転倒させた話なんじゃないかと思う。
 楳図かずおの『半魚人』はマッドサイエンティストの兄によって弟が半魚人に
させられてしまう話だ。その弟が沖に向かって泳ぎ去っていくときに、弟の親友
が彼がかつて好きだった曲をハーモニカで吹くと、半魚人になってしまった弟の
気持ちが一瞬呼び戻されて、こちらに振り返るのだが、結局彼は泳ぎつづけてい
く……。記憶の話であると同時に死の話でもある。
 あー、やっぱり、具体性って、素晴らしいよね。言葉をいくら費やしても追い
つけない豊かさがある。
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■ゲスト劇場・第七回 「チイさなことからコツコツとvol.02」 by/ちい

 大学のすぐ脇を、今年の春建てられた新学生会館と、感染症研究所という何か
と物議をかもした(している)二つの建物に沿うように細い坂道が通っていて、
その道をはさんだ大学の反対側には戸山公園というわりと大きな公園がある。大
学と戸山公園の間を通る細い坂道を五分くらい歩いて登り切ったところに戸山ハ
イツという団地に囲まれるように箱根山という小さい山があるから、その坂道は
箱根山通りというらしい、ということをぼくは最近まで知らなかった。
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にもかかわらず配信され、尚且つ、そんなもの読みたくない!、という方が
おりましたら、ごめんどうでも以下メルアドまで「よせ!」とメール下さい。
また、こちらの手違いで二重配信されている方がおりましたら、これまた誠に
申しわけございませんが、「やめろ!」と、メールにてお知らせ下さい。
          gabun@k-hosaka.com 高瀬がぶん
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           今月の【わたしのオススメ】(おすすめ人)
           
■乗り物:『車を運転すること・車内という空間』(いそけん)

今まで隠していたが、じつは僕はチビッコ自動車博士としてテレビに出たことが
ある。三歳にして国産乗用車ほとんどの正確な名前をいえるという、いやーなガ
キンチョだったらしいが、にもかかわらずその後僕は自動車に対してはどちらか
といえば否定的なスタンスに立ってきた、ということは以前保板にも書いた。生
活する上でどうしても必要ではないわりに、自動車を持つことの代償は大き過ぎ
るように考えていたからだ。
ところがアメリカで車を運転せざるをえなくなって少しした頃に、音楽を鳴らし
てボケーッと考えごとをしながら運転している時間や、同乗者との、途切れがち
なのに不自然でない会話なんかには妙な心地よさがあることを発見した。こうい
う車内という空間は今どき貴重なんじゃなかろうか、なんて考えていたら先日、
石川忠司の『文学再生計画』の中に、何か作業しながら適当に流す『うわの空』
の快楽は近代以降失われてしまったのだが、「人類はその代替物として自動車と
いうものを開発したんだ」と書いてあるのを見つけた。やっぱ真面目にロックを
聴いてきた奴のいうことは違うなあ。     

■本:とんこつラーメン『田中商店』(サムソン)

首都高の加平インターから環七を日光街道に向かって1キロ程走った右側に博多
とんこつラーメンの有名店『金太郎』がある。ここはTVやグルメ本などでもよ
く紹介される店だ。実際に美味しい。でも最近、店長をはじめその他の店員が一
斉にいなくなり、見た事無い連中が(それでも)いつもの味のラーメンを作って
いた。「?」と思っていた所にその店からさらに1㎞程離れた所に『田中商店』
というおよそラーメン屋らしくない名前の店がオープンした。看板には長浜ラー
メンと書いてある。さっそく入ってみると店内は客であふれ、あの店長や店員達
がみんないるではないか?レジには店長の名前の入った名刺が置いてあり彼がオ
ーナーである事を告げている。いったい『金太郎』に何があったのか? しかし
僕は別に店長の知り合いでも、それほどの顔なじみでも何でもないので、そんな
事は知らないし聞けやしない。すいません、謎のままです。でも肝心のラーメン
は旨かった。金太郎は旨いけど食後に当分いいやという変な満腹感があるのだ
が、ここのは明日の晩も食べられるかもという清涼感?があり、韓国で二日酔い
の朝に町角の定食屋で薦められた白湯スープのお粥のあの『コク』を彷佛させて
くれました。

■中国茶:中国紅茶「正山小種」 ティーギャラリー陀陀舎(ぐら)

中国茶の勉強会で先生がいれて下さるお茶は甘露という言葉がぴったりの味で、
とろりと水面が輝く様子は何度見てもうっとりしてしまう。大きめの蓋碗での紅
茶のいれ方を教わったので、同じ茶葉を買って試してみた。正山小種-ラプサン
スーチョンは正露丸の香り、といわれているけれど、その日買ったのはもっとや
さしい龍眼の香りのもの。茶葉の香りを深く吸いこんでみる。薫香の中に甘いも
のが混じっている。香りの強弱と、からだにやさしいお茶かどうかはあまり関係
がなくて、からだが受け入れる香りであるかどうかが大切だとのこと。お茶はそ
の葉に育った山の記憶を持っているから、お茶を味わうことは山そのものを味わ
うことだという先生の話を思い出しながら、ゆっくりいれて、ゆっくり楽しむこ
とにしよう。甘くてやわらかい味がする。もちろん先生のお茶には遠く及ばない
けれど。いつかほんとにおいしいお茶がいれられるようになりたいな。

■カフェ:YonchomeCafe<カフェ・高円寺>(ごい)

窓側の席で本を読みながら過ごす時間がたまらなく好きなので、思い出すたびに
足を運んでいる。大きなマグカップで出てくるコーヒーはお代わり自由。平日の
昼間でもそれなりに客が入っていて適度にやかましい。天井が高くガラーンと広
い店内はBGMと客のおしゃべりを中和させているのか、どちらも気にならない
ので心地よい。そこで思い出すのが21歳の夏に訪れたニューヨーク。にわか雨
に見舞われ駆け込んだソーホーのカフェだ。周りの客の会話なんて聞き取れない
ので意味不明。例え「あの日本人、シャカイの窓が全開だぜ」なんて言われてた
としても気になりようがなかった、あの時の心地よさが蘇ってくる。何気なく窓
の外に目をやる。電車の到着にあわせて吐き出される人々。高円寺駅前の風景が
ブルックリン辺りのそれとダブって見えたりもする。どうやらコーヒーでも酔え
る体質に変わったのかもしれない。3時間ねばっても500円でお釣りが来る。
幸せだ。

■漫画:『るきさん』・高野文子(みぞれ)

るきさんは推定30才前後。お仕事は在宅の医療事務。1か月分の仕事を1週間
で終らせて、あとは悠悠自適。趣味は切手収集。雨続きで着るものがなくなると
肌着の上にレインコートで外に出たり、鏡が壊れるとTVのブラウン管を鏡代わ
りにしたり、なんかアバウトなんだけど、ひとり暮らしでもご飯はきちんとこし
らえて食べるし、蜜柑の皮を干しておいてお風呂に入れたり、ちゃーんと生活を
楽しんでる。っていうよりるきさんは自分の生活にかけらほども不満がない。そ
こがいい。ポジティブに生きよう、とか、そんな事すら考えていなくて、ただあ
るがまま。飄々と。こんな女性に私はなりたい。
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            読者投稿【わたしのオススメ】コーナーのお知らせ
 みなさんのお気に入りの本、映画、音楽、芝居、飲み屋、雑貨、漫画など、
 なんでもありのオススメ文を募集します。
 字数は本文のみ(題名、名前、出版社などは別)400字以内
 オススメの理由や感想など書き方は自由ですが、自分らしいものをお願いしま
 す。一応その月の〆きりは毎月10日、構成その他の都合上、必ず載るとは限り
 ませんが     keito@k-hosaka.com まで、待ってます。
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■連載【はやねはやお記】#02 by/おくい
「時間が回帰することと、言葉でそのきっかけを用意すること」
 小説や映画や音楽を体験しているときに私の意識の中に起きている状態を、そ
のまま伝達することができればなあ、とよくおもうけれど、それはできない。な
ぜなら、過去を参照するとき、人はなにかしらの分節装置を用いずには参照する
ことができないから。分節されている時点でそれは過去そのものではなく、なに
かの装置によって擬似的に再来している装置上の過去ということになる。
          この続きは以下のURLへどうぞ。
     http://www.k-hosaka.com/inamura7/okui/okui.html
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■連載【稲村月記】vol.08(フォトコラム) 高瀬がぶん
          「possible dream」
稲村が崎のがぶん家からバイクで七里ヶ浜住宅地を通り抜け、鎌倉山を越え、夫
婦池と名のついたひょうたん型の池の脇を通って大船方面へ抜ける途中に、まだ
田んぼや畑がわずかだか残っていて、なんかいい感じの田園風景がほんのちょっ
ぴり広がっている場所がある。
※この続きは、写真付きWEBページでお楽しみ下さい。
 http://www.k-hosaka.com/gekki/gekki08/gekki08.html
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    春野景都【興味津々浦々】バックナンバーはこちらからどうぞ。
       http://www.k-hosaka.com/inamura7/tutu.html
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■連載【興味津々浦々】vol.10
         「ジャパニーズ・ガウンの巻(その9)」春野景都
KCIギャラリー(京都服飾文化研究財団)で開かれていた「メイド・イン・ジャ
パン展」の最終日、エムさん、チョウ子さん、わたしの三人は周防さんを訪ね
た。新幹線の中では「一年に二回も京都に来れるなんて、、」とうきうきしなが
ら、行きたい所と食べたいものの最終チェックをしていたけれど、わたしは京都
についてすぐに訪れることになっているこの展覧会のことが頭から離れず、ちょ
っと緊張気味だった。というのも、あらかじめ周防さんから送られてきていた小
冊子の椎野正兵衛に関する論文には、少なくとも春の段階では調べられてはいな
かったいくつかの事実がかなり綿密に調査されていた。もういっかい、しっかり
読んでおいて質問をまとめておかなくちゃと思っていたのに、鴨南蛮を食べるな
らどこがいいとか、舞妓の格好をさせてくれて、置き屋のおかみがその筋のしき
たりなんかを教えてくれるところにも行ってみたいねとか話しながら、あっとい
うまに京都に着いてしまった。そういえば、車窓から見えた雪の帽子をかぶった
富士山も絶景! 京都に着くと、駅ビルに続く伊勢丹に入っている「美々卯」で
きのこうどんを急いで食べた、やっぱりおいしい。
「メイド・イン・ジャパン展」では明治時代、輸出用に制作されたドレスやガウ
ン、バックなどの小物が展示されていた。それは日本独特の図柄が刺繍してあっ
たり、着物の形をガウン風にアレンジしていたりして、大きくふくらんだ袖やき
ゅっとくびれたウエストラインにせまい肩幅などとあわせて全体としてながめる
と、西洋文化と出会った日本文化の不思議でエキゾチックな雰囲気がかなり迫っ
てくる感じで、なかなか魅力的だった。たとえば、ピエモンテーズ風プリーツに
レッグ・オブ・マトン袖というヨーロッパで流行した形のガウンには、鮮やかな
紫色の玉虫甲斐絹(山梨特産の絹)を使い、ちょっと怖い名前なんだけれど、肉
入縫いという日本刺繍の技法で菊と紅葉が施されているという具合。ところで、
こういったガウン一着、当時の一般的な日本人の一ヶ月のお給料くらいの値段だ
ったそうである。
ところで、周防さんの論文の中で特に気になった箇所は、ひとつめとして、KCI
所蔵の正兵衛のキルティングのガウンがアメリカでみつかったということはわか
っていたけれど、もし今でも残っているならば、それは当然ヨーロッパ、とくに
リヨン織物博物館などもあるフランスが多いのではなかろうかと思っていたけれ
ど、椎野正兵衛ガウンに似た物が、メトロポリタン美術館などのアメリカの多く
の美術館に所蔵されているということがわかったそうなのだ。ふたつめは「レイ
夫人の世界周遊日記」。これはイギリス人のアリス・メアリ-・レイ夫人が夫チ
ャールズと一緒に10ヶ月半に及ぶ世界一周旅行をした時の旅日記で、それによる
と1881年、16日間の横浜滞在中に三度も椎野正兵衛店に足を運んでいるというこ
とが書かれ、店のことについても、他とは比較にならぬ程の充実した品揃えの店
であることなどが記載されているのだ。なにせ、1864年、正兵衛の店は「S.SHOB
EY Silk-Store」と英文横書きの金文字入りの看板をかかげているのだ、鎖国を
解いた1859年からわずか5年後とはちょっと信じがたい。とにかく輸出記録やそ
の他の正兵衛の動きを見ても、彼が主要な輸出先にアメリカとイギリスを選んで
いたということがわかるのだ。
「レイ夫人はかなりのお金持ちなわけだし、きっとイギリスの貴族かなにかでそ
の孫かひ孫は、たぶんちゃんと生きているわよね」
というわたしの言葉に
「そういった人たちを捜し出せるとといいんですけどねえ」と言う周防さん。
「でも、春からよくここまでいろんなことがわかりましたね」と言うと、
「けいとさんたちが来てくれたことがちょっとしたきっかけになったんですよ」
「えー、ほんとに?周防さん!」
ということで、この連載もただ気のむくままに書いているようだけど、なにかし
ら人のためにもなっているのね、とちょっとうれしくなってしまった。
「こんど、東京にきたら是非、うちに泊まって!」
わたしの言葉にうなずきながら
「そういえば、先日、椎野さんが見えたんですよ」と周防さんが驚きの発言。
わたし達三人は顔を見合わせてしまったのだけれど、椎野さんは独りでふらりと
この展覧会に現われ、なんと椎野正兵衛店の名刺を出したそうで、しかもその住
所は横浜。うれしそうにわたしたち三人がいろいろ調べてまわっているというこ
とを話していたらしいのだが、そいうわたしたちにさえ、くわしいことはなんに
も話さないんだから、まったくもう、さすが正兵衛のひ孫である。
「椎野正兵衛店の名刺ってことはもうお店もあるってこと?」
「いったい、なにを売るっていうの?」
「まさか、正兵衛のガウンのレプリカを売るつもりかしら」
なんて、考えても仕方ないので、とにかく新年会でも開いて聞いてみようという
ことになった。

その日の夜は木屋町の「菊乃井」で京料理をいただくことになっていたのだけれ
ど、それまでちょっと時間があるので、永観堂で「夜の紅葉狩り」にということ
になった。のだけれど、実際訪れた永観堂はすでに、紅葉の三分の一は枯れてい
る感じで、しかもすごい人出。はっきり言って、いまいちだったので、これは観
光名所の王道、清水寺に行くしかないということでタクシーに飛び乗った。タク
シーの運転手さんはなかなか面白い人で聞いてもいないことまでぺらぺらと説明
してくれて、
「あ、ここは亡くなられた山村美沙さんお家でね、このとなり、ここが西村京太
郎さんの家ね。ほら夜でも電気ついて、ショウウインドウのようでしょう」たし
かに見てみると、玄間らしきところがガラス張りになっていて西村京太郎の本が
飾られてあり、そこにスポットライトがあてられていた。横にはおおきな出版社
の看板まであって、うわ、派手!と叫んでしまった。
「ここはね、山村さんと西村さんの庭も家の中もつながっていてね、、」と運転
手さんが言うので
「え、ふたりは夫婦だったのー?」わたしが聞くと、
「違う、違う、山村さんは御主人も一緒に暮らしてはったからねぇ」だって。
「有名な話よ、知らなかったの?」とエムさんに言われてしまったけれど、ちょ
っといろいろ妄想が頭の中をかけめぐってしまい、そのあともしつこく質問する
わたしにチョウ子さんもあきれ顔。
うーん、それにしても信じられない。
とにかく、清水寺に着いて、その産寧坂でなつかしいひょうたんやをみつけた。
実はわたし、17才のころからひょうたんを集めていて、そのきっかけとなったひ
ょうたんを初めて買った店がここだったのだ。といっても、今回あらかじめ知っ
ててここに来たんじゃないんだけれどね。    (つづく)
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■編集後記
きょうのテレビのニュースによると「豚丼」が流行ってるらしい。以前、「豚丼
が好き!」と言ったら、「なにそれ?」と言われ、豚丼が北海道のそれも帯広近
辺の十勝地方でのみで使われる料理名と知ったんだけど、小さい頃から、わたし
はよく豚丼を食べていた。焼いた豚肉をごはんにのせてタレをかけると言えば、
それまでだけれど、豚肉は炭火で焼き、それがダメな場合はフライパンで強火で
焼いたらすぐに取り出し、油とか汁とかがない状態の肉に秘伝のタレをからめる
と言う具合。秘伝のタレ、これはきょうのテレビでも帯広の人が言っていたのだ
けれど、おおげさなようだが、たしかにうちでも秘伝のタレらしきタレがあっ
た。テレビに出てたお店の人は75年前からのタレと言っていたけれど、うちのは
一日かけて母が作っていた。今でも時々、同じものを伯母がわたしに送ってくれ
る。久しぶりに伯母に電話をかけて作り方を聞いてみたら、「へっ」というほど
簡単な作り方だった。秘伝だからここには書けないけどさ。ちなみに母が一日か
けてたのは、たぶんよく食べるわたしたちのために大量に作り置きしてたせいじ
ゃないかと伯母は言っていた。(けいと)
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2000/12/20 vol.10 メールマガジン【いなむらL7通信】10号
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