◆◇◆////////////////////////////////////////////////////////////◆◇◆ 
◆◇◆    メールマガジン【いなむらL7通信】 第8号       ◆◇◆ 
◆◇◆////////////////////////////////////////////////////////////◆◇◆ 
                        2001/10/20 vol.08
                編集部より
いつの日か歴史の教科書に、
「戦時中」として記載されるかもしれない今日このごろ、
皆様はいかがお過ごしでしょうか?
人は善くも悪くも、刺激には慣れてしまうもので、
やがてその刺激も日常にとけ込んでしまうものなのですね。
というわけで、
このメルマガもすっかりみなさんの日常にとけ込んでいるとは思いますが、
インスパイヤー・ザ・フューチャーの精神で、
いろいろ面白くしていこうと思っております。
なにやら面白そうな企画でもありましたら、
ぜひ編集部までメールをお寄せ下さい。
●********************************************************************●
========================================================================
■■■          芥川賞作家・保坂和志公式ホームページ       ■■■
■■■        【湘南世田谷秘宝館】            ■■■
■■■          http://www.k-hosaka.com             ■■■
■■■    未発表小説『ヒサの旋律の鳴りわたる』をメール出版中!  ■■■
■■■    http://www.k-hosaka.com/sohsin/nobel.html      ■■■
========================================================================
★☆★----------もくじ--------------------------------------------★☆★

■今月の特集【訪問】 竹内公明(陶芸家)
■連載【小説論番外篇】vol.08 「小説と実在の人物」保坂和志
■ゲスト劇場・第五回 「ご隠居倶楽部・活動報告」(2) by/ゴイ
■今月の【わたしのオススメ】(オススメ人)
 ◆映画:『トゥ-ム・レーダー』(サムソン)
 ◆フード:『お菓子系まんじゅうのこと』(おくい)
 ◆本:『清水邦夫全仕事 1992~2000』河出書房新社刊(黒い犬)
 ◆本:『小ネコちゃんて言ってみナ ヤンの短篇集』 
  町田 純/未知谷(じゅんれい)
 ◆本:『鉄の胃袋中国漫遊』石毛直道 平凡社ライブラリー(めざ)
 ◆ショップ:『備前焼 白鳥』(みっちっち)
 ◆音楽:『少女の夢、天使の歌』・・・a dream come true
   ベッキー・テイラー (東芝EMIレコード)(あめ)
■連載【稲村月記】vol.07 『フクに時間の流れない』高瀬がぶん
■連載【興味津々浦々】vol.08「ジャパニーズ・ガウンの巻(7)」春野景都
■編集後記
★☆★--------------------------------------------END-------------★☆★
●********************************************************************●
                ★次週特集予告★2001/11/20 配信予定
                インタビュー「女優・友里千賀子」
鎌倉に住む友里さんに聞いちゃいます。女優という仕事について、住み慣れた鎌
倉について、大好きな犬について、そして、幼なじみである保坂くんについて。
おたのしみに!
●********************************************************************●
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆今月の特集◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
            【訪問】竹内公明(陶芸家)
「公明先生の個展がホテルニューオオタニの寛土里(かんどり)で、あるんだっ
て」という電話を友人からもらった。竹内公明先生に初めてお会いしたのは、以
前、愛知県常滑(とこなめ)市に旅行し、駅近くにある共栄窯の陶芸教室に参加
した時だった。
       ・・・・・・つづきはWEBページで・・・・・・
◆◇◆この続きは参照写真付きの、以下のWEBページでお楽しみ下さい◆◇◆
         http://www.k-hosaka.com/inamura7/komei/komei.html
--------------------------------END-------------------------------------
★********************************************************************★

■連載【小説論番外篇】vol.08「小説と実在の人物」 保坂和志

 前回(7)「大事件と小説」の最終段落はこうでした。
「しかしそれでも、と思う。大事件を前にして本当のところ人は何に動揺してい
るのだろうか。大事件を前にして、人は人1人の存在の大きさをあらためて発見
しているのかもしれないとも思う。人間1人が持っている情報の大きさというの
は本当にすごいものだ。そのことは次回書こうと思います。」
 今回のテーマは「モデル問題」ではない。が、「保坂和志公式ホームページ」
の「創作ノート」の『プレーンソング』の、アキラのモデルとしてかつては実名
も出していたU君のことでもあるので、一種のモデル問題なのかもしれない。

 私は自分の小説の登場人物のモデルないしインスピレーションとなった人の名
前を、いままでエッセイとかなんかで、機会あるごとにすべて実名で書いてき
た。その理由は、モデルとなってくれた人たちへの敬意であり、もっと大きい理
由としては「私はこういう人物を私1人の力では造形したわけではない。だから
一種の著作権を明示するような気持ち」だった。もちろん、小説の中でその人物
の欠点をあげつらったりしていない。かりに欠点と見えることを書いていても、
『プレーンソング』でアキラについて書いているように、「欠点それ自体が長所
となる」ような書き方をしていたつもりで、「欠点それ自体が長所となる」よう
な人が私は好きなのだ(私自身もそういう人間の1人だ)。
 もちろん世の中にはそういう理屈(?)をまったく解さない人間もいる。学校
の教室の中で、いつも人を笑わせる役回りを演じているヤツのことを、ただ「バ
カ」だと思っているような人間のことで、そういう人とは、私は中学生くらいか
らつきあわないようにしてきた。

 U君はパソコンを持っていないし、使えない。が、U君の周辺の友達や親戚が
U君の名前を検索して、『プレーンソング』の「創作ノート」を見つけてしまっ
たのだ(何しろ彼は映画の脚本を書いたりして、それが賞をとったりもしている
から、検索すると最大時には100件ぐらい出てきたらしい)。で、彼の10代
のことが書いてあったりして、いろいろ言われるはめになって、私に「名前から
検索できないようにしてくれ、『U君』ならいい」と言ってきたのだった。その
抗議の仕方がバカバカしかったので、こっちも腹が立って言い返したりもしたけ
れど、差別というのの原則は、「被害者が差別と感じたら、加害者の真意がどう
であっても、それは差別なのだ」で、このモデル問題もその論理にあてはめて、
私はU君の抗議を受け入れて、本名を消してすべて「U君」とした。
 U君は「保坂さんはいつもネタ探しをしていて、おれのことをおもしろおかし
く誇張して書く」と言った(1)。U君はいまもそのところで、ぐつぐつと考え
ているらしい。
 それからU君は、「おれは自分の名前をすごく大事にしているから、その名前
をおれ自身の作品以外の場所で使われたくないんだ」とも言った(2)。
 それからU君は、「保坂さんもおかしいよ。ホームページなんかで自分の作品
のこととか、だらだら書いて。本当の保坂さんの文章はあんなんじゃないよ」と
も言った(3)。

 さて、本題はここからです。(これはU君個人に対する答えではありません。
それだったら、手紙で書くでしょう)
 上の(1)(2)(3)が、私の小説観、文学観、作品観……と違っていて、
おおかたの小説観、文学観、作品観……と同じであることに、私は「疲れるな
あ」という気分になった。それが今回の本題です。そして同時に、これがまさに
前回の最終段落を引き継ぐことになるわけです。

 (2)で、U君は(自分も含めた)1人の人間よりも作品を大事にしているけ
れど、私は作品よりも人間を大事にする。――というか、作品よりも1人の人間
の方が絶対にすごいと思う(A)。これはもう『プレーンソング』を書くときか
らずうっと一貫している私の小説観で、平和で繁栄していた80年代に、中上健
次をはじめとしてかなり沢山の人が口にした「空気がたるんでいるからいい文学
がうまれない」という非常に安直な文学観に対抗して(B)、私は自分の小説を
書きはじめたのだった。
 (A)と(B)は直接には結び付かない。しかし、両者を包括する基盤を想定
すれば、これが同じことだということはわかるだろうし、『世界を肯定する哲
学』をはじめとするエッセイもほとんど、この基盤に立って、この基盤について
書いている。作品よりも1人の人間の方が存在としてすごいから、人間は大事に
されるべきなのだ。
「芸のためなら女房も泣かす」に値する芸なんて世界には存在しないわけです。
「人間の生命は何よりも優先される」という言葉が、言葉としては流通し、定着
しているけれど、それを実践するとなると、災害や事件の現場で絶望としか思え
ない被災者・被害者を救出することぐらいで、芸術分野ではこのことはまだほと
んど誰も真剣に考えていない(私が考えつくのはヨーゼフ・ボイスぐらいだろう
か)。「芸のためなら女房も泣かす」と同じ理屈で、作品を面白くするためな
ら、何人人を殺してもかまないと考えている人ばっかりで、人を殺さずに作品を
成立させることを本気で考えている人は、本当の話、保坂和志しかいないんじゃ
ないの?(それが理由で私の作品が「単調だ」とか「起伏がない」とか言われる
のなら、私はそれでかまわない。)
 で、今回のはじめに書いた「私はこういう人物を私1人の力では造形したわけ
ではない。だから一種の著作権を明示するような気持ち」というのも、それと同
じことで、私にとって、作品よりも実在の人間の方が優位にあるから、私は1人
の書き手が実在する人間以上の情報(=魅力)を作品の中で造形できるとは考え
ていない。で、私は小説に先立って、小説を書くことを念頭に置かずに、つきあ
って面白いと思った人のことだけを小説に書くのだから、普段の生活の中でネタ
探しをしているわけでは全然ない(U君自身はなんといっても、彼が作る作品よ
り人間の方が絶対に面白い。10代20代の頃、彼は人間としての面白さ・強烈
さに必死になっていた)(「つきあって面白い」と思わない人のことを書けない
ところが、私の欠点で、この欠点を克服(?)するためには、「つきあって面白
くない人」にも面白さを発見するのが正しい(?)方法なのか、面白くないこと
をそのまま書くのが正しい方法なのか、が私にはまだわからない)。
 以前、ある小説家と話をしているときに、私が自分の親戚の話をすると、その
人から「あなた、いいネタをいっぱい持ってるじゃないの」と言われたことがあ
って、私はその人を「貧しい人だ」と思った。その人は、「小説家として」生き
てしまったわけで、「人間として」生きているわけではないのだ(しかし、この
考え方は、小説家のあいだに蔓延している。結局U君も同じ考え方をしていると
いうことになるだろう)。去年、早稲田で講演したときに、「書くことは世界に
対して簡単に閉じてしまう」という意味のことを、私は強調したつもりだけど、
ネタ探しで生きてしまったら、ネタのレベルでしか人を見ることができないだろ
う。

 と、こういう小説観を厳密に書いていくとキリがなくて、いま時間がないの
で、こんな荒っぽい風にしか書けないけれど、とにかく、私の小説観は普通に思
われている「小説」というものと、ほとんど接点がない。そして、私の小説は普
通の「小説」を期待する人には面白くない。ついでにいうと、私の小説を面白い
と思った人でも、不用意に説明しようとすると、普通の「小説」をしゃべるみた
いにしゃべってしまって、それを聴く人は、「全然面白くないじゃないか」と思
う可能性が強い。
 というわけで、私は機会さえあれば、自分の小説に関して、スペースと体力と
時間が許すがきり、しゃべりまくり、書きまくる。私は「作品が、作品として独
立で理解される」という幻想を信じていない。が、U君の(3)のように、作品
自体を傷つけることになると感じる人もいる。いままでも、ホームページの掲示
板にはっきりと「こんなに小説の舞台裏とか何もかも書いてあって、失望した」
という意味のことを書いた人もいたし、そうは書かなくても、そう感じた人がけ
っこういるはずだ。
 でもやっぱり私は表明しなければ伝わらないじゃないかと思う。作家に対して
何らかの幻想を持つこと自が、私の小説観に反することで、私は幻想を持ってほ
しいとは思わない。寡黙にしていて幻想を醸し出すなんてくだらないことで、し
ゃべりすぎて馬脚を顕わすことの方が、最終的に文学を守ることだとさえ思って
いる。――と、いろいろ書いてみても、批判や誤解に対する返答として書きはじ
められた文章というのは、やっぱり全体として貧しいねえ。
 批判や批判に対する批判をいくら繰り返していても愛は生まれない。というこ
とをいままた実感した。愛とか肯定する気持ちというのは、ほんのわずかでも批
判の気持ちがあるとやっぱりダメで、そういう気持ちとは独立に立ち上げなけれ
ばならないもので、やっぱりそれが一番難しい。それなりにつきあいの長いU君
が、結局私の個別の小説を面白いと思うだけで、その基盤をまったく理解してい
なかったことも、やっぱり空しいというか、殺伐とするというか……。 
--------------------------------END-------------------------------------
★********************************************************************★
■ゲスト劇場・ご隠居倶楽部・活動報告2 「行きずりの猫」 by/ゴイ
   フォトエッセイになっておりますので、以下のURLへどうぞ。
     http://www.k-hosaka.com/inamura7/goi/goi.html
●********************************************************************●
   まぐまぐ版「いなむらL7通信」配信登録・削除ページのご案内
        http://www.k-hosaka.com/inamura7/inatu.html
上記URLで登録・削除ともできますが、創刊号0号より申し込んだ記憶がない
にもかかわらず配信され、尚且つ、そんなもの読みたくない!、という方が
おりましたら、ごめんどうでも以下メルアドまで「よせ!」とメール下さい。
また、こちらの手違いで二重配信されている方がおりましたら、これまた誠に
申しわけございませんが、「やめろ!」と、メールにてお知らせ下さい。
          gabun@k-hosaka.com 高瀬がぶん
●********************************************************************●
           今月の【わたしのオススメ】(おすすめ人)

■映画:『トゥ-ム・レーダー』
ゲームソフトが原作のこのお話は御都合主義のB流映画でした。CGやアクショ
ンシーンには金はかかっているが、安っぽいイメージならもうとっくに見飽きた
し、目新しいショットや編集は特になし。でも、そんなところを見る映画じゃあ
りません。主演のアンジェリーナ・ジョリ-が滅茶苦茶かっこいいのです。徹底
的にそこにこだわっている映画と行っても過言でない!スタイル抜群で美しくて
強烈に色っぽい。そして『唇』がいい。いつも半開きの上唇が反り返っていて、
下唇は三次元的で彫りが深くて分厚くて、とても良いかたちをしている。(でも
一歩間違うとドナルドダックのくちばし)彼女が怒っても笑ってもベットで寝て
いても チュ-する時のあの『くちびる』の開き方そのまんま。(多少ふざけて
する時のあのチュ-)その唇に彼女の強い眼力が加わっていろいろな表情を見せ
るのです。(硬そうだったり柔らかかったり)約二時間、そんな彼女を観ていた
だけで楽しめました。それと原作の主人公ララ・クロフトのイメージを損なわな
いようにブラには詰め物をしていたらしいけど、アクションの間中ずっと揺れて
いる胸も最高によかったのですよ。(サムソン)
          
■フード:『お菓子系まんじゅうのこと』
ちかごろは気温も下がって、めっきり秋らしい具合になってきて、いろんなとこ
ろに秋から冬にかけての季節感を感じさせるものがたくさんみられるようになり
ましたが、私が特に喜んだのは、コンビニでお菓子系まんじゅうを再び売り始め
ているのをみかけたことです。夏のうちは何も入っていなかったまんじゅう保温
機(?)の一番下の段に「チョコまん」という名前を発見したときの喜びは、ひ
さびさに感じたおもしろフードへの喜びだったので、格別のものでした。
もちろんすぐさま入店し「チョコまん」を105円で買った私は、そのチョコレ
ート色のまんじゅうの中はどんな具合になっているのか?? と、どきどきしな
がら食べ歩きをしてみたら、なんとあったかいチョコレートが中にとろけるよう
な感じで入っていたのでした。うまいに決まっています。同時に私は春先に食べ
た幻の「はちみつまん」のことをおもいだしました(幻、というのは、食べてす
ぐにまんじゅうの季節が終わってしまったので、再び食べることができなかった
のです)。あのふっくらとしたはちみつ色の生地の中に甘いはちみつとホイップ
クリームとが入っているのを食べたときの嬉しさは忘れられません。この他にも
「苺まん」などの情報を私は聞いているので、今シーズンはお菓子系まんじゅう
を探すためにコンビニを渡り歩いてしまうかも。みなさんもいかがでしょうか?
(おくい)
          
■本:『清水邦夫全仕事 1992~2000』河出書房新社刊   
「清水邦夫全仕事」は何年か分ずつをまとめて出版されていて、1992~20
00というのは3巻目になる。清水邦夫の戯曲が舞台になると、戯曲ほどおもし
ろくないのはなぜだろうと、いつも思っていた。この本には7つの戯曲が入って
いるが、どれも芝居で観た。戯曲の方がやはりよかった。それは私にとってで、
本当はどうなのかわからない。つい最近こんな言葉に出会って、私は清水邦夫の
戯曲を思った。「文字でなければならない、演劇でなければならない、映画でな
ければならない、というそれぞれのもの」。11月には新しい芝居が大山にある
劇場にかかるという。ここから次の全仕事4巻目にはいるはずだ。次の10年の
戯曲ではなにが語られるのだろうかと思う。ぶつぶつ言いながら、松本典子の艶
姿にちょっとドキドキもするだろうし。ほんと踵と足の裏がきれいなのよ。
(黒い犬)

■本:『小ネコちゃんて言ってみナ ヤンの短篇集』 町田 純/未知谷
保坂さんの小説を読んでいると、その物語の住人になりたいなと思う時があるの
ですが、同じように、このヤンの物語にも感じました。
キタリスの蓄音機でマタイ受難曲をなんべんも聞いたり、小さくていじわるな白
い猫の前をドキドキしながら通ったり、そして何よりも、ヤンの家にお伺いし
て、お茶をごちそうになりたいな、と思うのです。丘の上の小屋に住むネコのヤ
ンは、誰が訪ねても、サモワールでわかしたお茶とおいしいピローグをごちそう
してくれます。私が行っても、きっと温かく迎えてくれるんだろうと思うととて
も満ち足りた気持ちになるのです。。。(じゅんれい)

■本:『鉄の胃袋中国漫遊』石毛直道 平凡社ライブラリー
小学生のころ、本多勝一のルポ「ニューギニア高地人」を繰り返し読んでいた。
もちろん子ども向けに書き直されたものなのだが、しばしばうまい食事を作る人
として「石毛隊員」が登場する。この人が民族学者 石毛直道だった。本書で
は、世界のフィールドで鍛え抜かれた鉄の胃袋をもって「翼のあるものは飛行機
以外、四本足はイスとテーブル以外、二本足は両親以外なんでも」食べるという
中国食文化を旅する。中には秘宝館読者には信じられないようなメニューもある
のだが、鉄胃は悠然たるもの。食されるメニューの豊富さには舌を巻くばかりだ
が、決して最近話題の大食いなどではなく、「人々は何をどのように食べている
のか」を身体をはってフィールドワークしている姿にすぎないのだ。路地裏の屋
台から高級宴会料理まで、常に等しく学者の胃と目で接している文章は冷静沈着
で、なおかつ楽しい。伊藤千晴の写真も一見の価値あり。(めざ)

■ショップ:『備前焼 白鳥』
鎌倉駅から海のほうへ。鳩のいるお寺を通り、夷堂橋を渡ったところに一見普通
の民家が。しかしよく見ると、玄関の端っこに申し訳なさそうに木の看板が。そ
の名の通り、備前焼がお家の一角に上から下までずらりと並べられている。その
お部屋が、まるで田舎のおばあちゃん家に帰ったような昔懐かしい雰囲気で、器
を眺める眼も自然とのんびりのほほんとしてしまう。と、別のコーナーには皮小
物や、ニットの携帯アンテナカバーなど、一見調和を壊してしまいそうなポップ
なグッズが。それでもお店にいて居心地がいいのは、これも手作りの作品で、作
る人の暖かみが感じられるからなんだろうなぁ。ゆったり流れる時間を感じるた
めにこのお店に通うのも悪くないなぁ、と思わせられちゃう。いったいお店の人
はどんな人…と思ったら、ヒゲ面のこんな人でした。
http://www1.ocn.ne.jp/abu(みっちっち)

■音楽:『少女の夢、天使の歌』・・・a dream come true 
 ベッキー・テイラー (東芝EMIレコード)
このCDはベッキーの親がEMIレコードに一本のデモテープを送ったことから
生まれた。テープを聞いたEMIにオフィスに呼ばれた時わずか11才。録音時で
も12才の少女が歌う歌は決して子供の歌唱ではなく、EMIクラシックス100年
の歴史を変えると言われる程の賛辞を受けている。今回の曲はデイズニー映画や
ミュージカルからの曲が多いが,ジュリーアンドリュースやサラ・ブライトマン
が好きという、ベッキーの希望を取り入れて選曲された15曲をとても丁寧に慈
しむように歌っている。
不思議なことに聞いていると気持ちも部屋の空気もが澄んで行く。リズム主体の
音楽や凝った編曲を聞きなれてしまった耳に何とシンプルで美しくその声はしみ
わたってくることだろう。
“(原題の)「A DREAM COME TRUE」が私のすべてをあらわし
ている”といベッキーの言葉通り、大人になる一歩手前にいる少女の夢や耀きや
歌う歓びがすべての曲に溢れてる。目をとじてその夢の気分に浸ってください。
(あめ)
---------------------------------END------------------------------------
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
            読者投稿【わたしのオススメ】コーナーのお知らせ
 みなさんのお気に入りの本、映画、音楽、芝居、飲み屋、雑貨、漫画など、
 なんでもありのオススメ文を募集します。
 字数は本文のみ(題名、名前、出版社などは別)400字以内
 オススメの理由や感想など書き方は自由ですが、自分らしいものをお願いしま
 す。一応その月の〆きりは毎月10日、構成その他の都合上、必ず載るとは限り
 ませんが     keito@k-hosaka.com まで、待ってます。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
★********************************************************************★
■連載【稲村月記】vol.07(フォトコラム) 高瀬がぶん
          「フクに時間の流れない」
数千人の命が奪われてゆく様をリアルタイムで眺めながら、これっぽちも涙なん
か出なかったくせに、一匹の猫の死骸を前にしただけでこんなに涙が出るとは、
これが「自分と世界との関り合い」の限界だと思うとなんかとても切ない気分に
なる。
※この続きは、写真付きWEBページでお楽しみ下さい。
 http://www.k-hosaka.com/gekki/gekki07/gekki07.html
★********************************************************************★
    春野景都【興味津々浦々】バックナンバーはこちらからどうぞ。
       http://www.k-hosaka.com/inamura7/tutu.html
------------------------------------------------------------------------
■連載【興味津々浦々】vol.08
         「ジャパニーズ・ガウンの巻(その7)」春野景都
夢をみた。まるでほんとにあったことのように、自分がいた場所も、着ていた洋
服も喋っていた言葉さえ覚えている。それは、成田空港、わたしは椎野正兵衛の
ジャパニーズガウンを探しにフランスに行くところだった。チョウ子さんとエム
さんと一緒にいたんだけれど、チョウ子さんだけが、やたらと忙しく動き回って
いて、飛行機のなかで食べるチーズとクラッカーまで買い込んで、「まだ足りな
いものがあるのよ」と言って、どこかに消えてしまった。わたしとエムさんは手
持ち無沙汰でイスに座り込み、パリコレのモデルさんの話とか、エルメスの本に
出ていた神坂雪佳の絵についてとか、話していた。「日本人が見つける前に、い
くらエルメスの社長でもフランス人にさき越されちゃうのって、ちょっとしゃく
よね」なぜかわたしは、そこでその本を持っていて、雪佳の犬とかたつむりの絵
を指さして「でも、これ、ちょっと構図が悪いよね」と実際には考えたこともな
いようなことを言っていた。関係ないけれど、ブランドにほとんど興味のないわ
たしはエルメスのものなど何一つ買ったことがない。唯一この本だけは、エムさ
んがエルメス日本店のオープン記念のときにもらったのを、頼んで送っていただ
いちゃったのだ。
いきなり、息せききって現われたチョウ子さんが「何やってるのよ-、出発まで
もう五分しかないじゃない!」と叫んで、荷物をつかむと猛スピードで走ってい
ってしまったので、わたしとエムさんも、とにかくあわてて走り出した。途中で
階段があったり、宇宙センターのような機械が並んでるスペースがあったり、な
かなか飛行機に乗るところにたどりつけず、わたしはとうとう足がつって走れな
くなったところで目が覚め、当然、布団の中のわたしのふくらはぎもつってい
て、「いたたたーー」と声をあげながら、夢だったのね、、と気付いたのだ。

そのことを話すためだけじゃないけれど、その日の朝、チョウ子さんに電話して
夢の話を伝えると「やっぱりねー、きっと、わたしたち行けるわよ」とうれしそ
うに元気づけてくれた。実はガウンを探しにフランスに行くという話は中止にな
っていた。「リヨンに行くのよー」とチョウ子さんから電話があり、そりゃ、お
もしろいと話がすすみ、日程も決まりかけた時に、突然だめになったのは、もち
ろんもろもろの理由が重なってのことなのだけれど、一番の理由は椎野さんにド
クターストップがかかってしまったこと。こればっかりはどうにもならないか
ら、まあ、とにかく今回は見送り。それでこんな夢を見たのかもしれない。夫に
休みをとってもらうことにもなっていたし、義母にも頼んで子どもの世話の段取
りをつけていたのでほんとにがっかり。チョウ子さんのせいじゃないのだけれ
ど、落胆のあまり、そのことを伝えるチョウ子さんの電話にひどく無愛想になっ
てしまったけれど、考えてみれば、やみくもにフランスの博物館を回ったところ
で、そんなに簡単にジャパニーズガウンがみつかる訳もないのだから、行く前に
準備しなければならないことは山ほどあるわけだ。しばらくして、エムさんだけ
は仕事とお休みをかねて、フランスに行ったと連絡があった。その時、一緒に南
フランスを旅したアヤさんは、エムさんとは旧知の仲、ここ10年程は、フランス
と日本に居を構え、それぞれに半々の生活をするファッションジャーナリストで
ある。そのアヤさんが日本に来ると言うので、人形町の「きく家」で会うことに
なった。
「きく家」のおかみさんは今年の春に「人形町酒亭きく家繁昌記」という本を出
した。人形町という場所はその名の通り、歌舞伎や人形芝居の人形を作る人が多
かったところで、花柳界では有名な葭町(よしちょう)芸者が住んでたという粋
筋の土地柄。生っ粋の江戸っ子であるおかみさんの人生もこの本を読んでみると
かなりおもしろい。とにかく、本の帯の「いつも満員、大盛況」とあるように、
酒も料理ももてなしも絶品という噂の店なのだ。
昔懐かしい下町風の日本家屋の「きく家」は、派手さのないこじんまりとした門
構えで、中に入ると、意外に奥行きがあり、それぞれの部屋はさり気なく凝った
作りになっている。わたしたちが通された部屋は、町家風ではあるけれど、数寄
屋造りのお茶室のよう。廊下には漆が塗ってある。おかみさんが言うには、全部
漆職人さんに頼むとお金がかかるので自分達でかぶれたりしながら塗ったんだと
か。玄関の天井などは竹の皮に漆が塗ってあった。おいしいお酒と料理をいただ
きながら、今までの椎野正兵衛野ガウンについて、ざっとアヤさんに説明した。
アヤさんはリヨン織物博物館の元館長や著明な布地コレクターなどと親交もあ
り、当然、フランス語も堪能で、かなり力強い存在になってくれそうだった。
「当時、そんなにたくさんの椎野正兵衛ガウンが輸出されていたんだったら、た
ぶんどこかに残ってると思うけれど、おおきな博物館というより、個人が所有し
てるかもしれないわね。昔の貴族のお屋敷に、使わないお洋服をつめこんだクロ
ーゼットとか衣装ケースなんて、けっこうあるだろうから、その中に残ってるか
もしれないわよ」気さくに話にのってくれるアヤさんと話が進み、その夜は気付
いたら、終電に間に合うかしらという時間になっていた。それにしても、その
日、料理に合わせておかみさんが選んでくれた五種類のお酒はどれもこれもおい
しかった。一杯目は秋田の「六舟(ろくしゅう)」シャンパンのように炭酸ガス
を出すお酒、二杯目は長野の「明鏡止水」、三杯目は鳥取の「鷹勇(たかいさ
み)」四杯目は秋田の「深山錦」、そして最後に出された埼玉の「神亀」は、と
にかく、今まで飲んだこともないような最高の日本酒だった。
後日、フランスのアヤさんからメールが届いた。
「アンティークのモードを扱ったオークションがパリで年に1,2回行われるの
で、そういうのも注意しておきます。去年は、20-30年前のオートクチュー
ルでした。もっと古いものは自分の足で探さないとなかなか見つからないかもし
れません。そのためには、知り合いの人にできるだけたくさん声をかけておくこ
とが一番いい方法かも。パリで、頑張ってみます」 (つづく)
---------------------------------END------------------------------------
★********************************************************************★
■編集後記
あんまり知られてないんだけど、北海道帯広に柳月というお菓子屋さんがあるの
ね。北海道というと、六花亭が有名でマルセイバターサンドとか、ホワイトチョ
コとか、好みはいろいろあると思うけど、わたしは断然、柳月の「三方六(さん
ぽうろく)」が好き。行くと必ず買ってくるんだけど、このごろちょっと不満、
三方六っていうのは薪の割り方を言う言葉で、実際このおかしはバームクーヘン
を薪にみたてているようなものなんだけど。それで、このおかしには小さなナイ
フがついてくるのね、もちろんプラスチックだけど。わたしが小さい頃は、この
ナイフ、シンプルな形で適度に丸くてぎざぎざがついていて、夏ミカンむいた
り、やきいもを切ったり、バターナイフにもなったりして、ほんとに使い勝手が
よかったの。それがいつからか、斧のようなかたちに変わってしまって、かわい
くないし、使いにくくて、手も痛くなっちゃうし、もうほんとに、いやです。何
十年と味は変わってないのに、なぜに、なぜに、、ナイフだけが、、(けいと)
------------------------------------------------------------------------
発行人・高瀬がぶん/編集長・春野景都/スーパーバイザー・保坂和志 
〒248-0024 神奈川県鎌倉市稲村ヶ崎5-11-13
tel:0467-32-4439 fax:0467-32-4498 gabun@k-hosaka.com
------------------------------------------------------------------------
Copyright(C), 1995-2000 Bungate Web 高瀬がぶん
当メールマガジンに掲載された記事を許可なく転載することを禁じます。
2000/10/20 vol.08 メールマガジン【いなむらL7通信】8号
-------------------------------AII END----------------------------------