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◆◇◆    メールマガジン【いなむらL7通信】 第3号      ◆◇◆
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                        2001/5/20 vol.03
                編集部より
みなさんこんにちわ、
先月号ではここで、「保坂さんの本を読んだ感想、意見、遠慮しないで送って
下さい」と呼びかけたら、たくさんの人がメールを下さったり、掲示保板に書
いてくれました。メルマガについての激励も、とってもうれしくて、よっしゃ、
がんばるぞ!って気に。ほんとにありがとう。今月号でも、またまた遠慮なん
てしないでどんどん、送ってくださいね。
今月から新コーナーが始まりました。保坂和志の「質問保箱」。
小説について、考え方について、気にかかることについて、疑問に思うことに
ついて、是非、保坂さんに聞いてみたい!と思うことなら、なんでもけっこう
です。(と言っても、誌面の都合で載せられない場合はごめんなさい)。
なかなか面白い質問だーと保坂さんを唸らせてほしいなあ。
今回は二人の方から届きましたが、保坂さんの回答には、蛯乃木さんも登場し
ます
これからも、どしどし、送ってみてください。それから、新連載として、ゲス
ト劇場も始まりました。一回目は保坂HPの掲示保板でも、たびたび顔を出し
てくれるご隠居さんがご隠居倶楽部・活動報告を書いてくれました。やっぱり、
ご隠居さんらしいよね。いろんな人が登場できるといいなと思ってます。
本、映画、音楽などのおすすめ文も、待ってますのでいつでもどうぞ。
             (keito@k-hosaka.com)
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■■■          芥川賞作家・保坂和志公式ホームページ        ■■■
■■■          http://www.k-hosaka.com            ■■■
■■■   未発表小説『ヒサの旋律の鳴りわたる』をメール出版中!  ■■■
■■■    http://www.k-hosaka.com/sohsin/nobel.html      ■■■
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★☆★----------もくじ--------------------------------------------★☆★

■今月の特集【訪問】
 麻布十番、茶藝楽園の森田学さん
■連載【小説論番外編】vol.04 『明け方の猫』裏話  保坂和志
■新連載 ゲスト劇場・第一回 ご隠居さんの巻
■今月の【わたしのオススメ映画・舞台・音楽】(文・オススメ人) 
 ◆馬場俊英/ミュージシャン(文・ちぇり)
■今月の【わたしのオススメ本】(文・オススメ人)
 ◆「おきて」岩合光昭/小学館(文・なべ)
 ◆「美しい鹿の死」オタ・パヴェル/紀伊國書店(文・黒い犬)
 ◆「実録・外道の条件」町田康/メディアファクトリー(文・くま)
 ◆「映画はおそろしい」黒沢清/青土社(文・チイ)
■連載【稲村月記】vol.03 高瀬がぶん
■新コーナー・保坂和志の『質問保箱』
■連載【興味津々浦々】vol.04「ジャパニーズ・ガウンの巻(3)」春野景都
■編集後記
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               ★次号特集予告★2001/6/20 配信予定
        産婦人科医師・対馬ルリ子先生に聞く【女性の体】
       (都立墨田病院周産期センター産婦人科医長)
現代の女性は卵巣の使い過ぎ、、女のわたしでもどういうことなのかクエスチ
ョンマークである。知っていてもどうにもできない女性特有の悩みも、知らな
いことから生じる様々な不都合も、とにかく、こんなに親身に話してくれて、
行動してくれる人を他に知らない。いつだって、女の味方。
とにかく、男の人も知っていて損はない、と言うよりも知っていてほしい諸々
を、本音で聞いちゃいます。
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆今月の特集◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
             
■【訪問】麻布十番、茶藝楽園の森田学さん

お茶の香りの立つところには仙人や神様が集まってくる…という中国の古い言
い伝え、森田さんに会うと思い出してしまうのだけれど、彼は知る人ぞ知る中
国茶の達人。なにか、使いふるされた言い方で、達人なんて書くと返ってその
雰囲気が伝わらないけれど、仙人と言うには若すぎるし、名人、スペシャリテ
ィなんていうと、いっそう離れてしまうし、もちろん先生も似合わない。森田
学さんは、32才、東麻布に「茶藝楽園」という中国茶の店を開いている。

・・・・・・つづきはWEBページで・・・・・・
◆◇◆この続きは参照写真付きの、以下のWEBページでお楽しみ下さい◆◇◆
        http://www.k-hosaka.com/inamura7/morita/morita.html
                    
◆森田学プロフィール(茶藝楽園・店主)
 香港の友人、陳國義氏との出会いから、茶に親しむ。喫茶の持つ様々な側面
 を世に知らすべく、その魅力を伝えている。
 特に「ティーセラピー」としての可能性を重視、その実践を模索している。
 積極的に茶会を催し、淹茶技術には定評あり。茶葉の個性をいかに引き出す
 か、又、いかに自分「らしく」愉しむかをテーマに、茶藝指導を行っている。
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■連載【小説論番外編】vol.04 『明け方の猫』裏話  保坂和志

『明け方の猫』は、まるで『世界を肯定する哲学』を小説として書き直したみ
たいな内容になっていますが、本当は逆なのです。
『明け方の猫』は『生きる歓び』の中で、「いま書きかけになっている、猫の
五感についてのことばかり考えている小説」というようなことが何度か話題に
されている小説のことで、99年の2月から4月にかけて書いていたものです。
『生きる歓び』で花ちゃんを谷中の墓地で拾ったのは、99年の5月1日のこ
とです。花ちゃんの世話に追われて6月末くらいまでが過ぎ、そのあと8月5
日に引っ越しをして、引っ越しに伴うあれやこれやが落ち着くのは9月末でし
た。その間に、4月のうちに引き受けてしまった『世界を肯定する哲学』――
当時は『世界のはじまりの存在論』でした――の、3章までを書いたのと(だ
から思えば、あの連載の依頼があと2週間遅かったら、花ちゃんを拾ってしま
ったために、『世界を肯定する哲学』も存在しなかったかもしれない)、4日
か5日で『生きる歓び』を書いた他はまとまった仕事はいっさいせず、そのう
ちに『明け方の猫』のことはどうでもよくなっていた。
『明け方の猫』というタイトルが、もちろん、いつもどおり、文芸誌の目次の
締切り寸前につけたものであることは、ホームページの掲示板を見ている人な
らよく知っていることです。だから、私は名無しの小説について、「あれをど
うやって展開させようか」と考えていたわけだけれど、名無しとか「あれ」で
は不便なので、ここでは『明け方の猫』という名前があたかも最初からついて
いたかのように書いていくことにします。

『明け方の猫』は、全体が3部か4部で構成される長編の第1部のつもりで書
きはじめたものだった。第2部は、ガラリと全然違うシチュエーションになる。
たぶん、誰かが普通に生活とか仕事をしている。その人はあの夢を見た人かも
しれないし、全然違う人なのかもしれない。書いている作者自身、そのあたり
のところは、わざと決めずに書き進めていく。第3部もまたガラリと別のシチ
ュエーションになる。そのようにして、全体ができあがり、通して読むと、「
つながりがあるようなないような気分」になる。その微妙な感じの全体が、〈
生まれ変わり〉とか〈前世〉というのは、こういう風に微妙な、わかるような
わからないようなもので、単純に「ある」とか「ない」とか言っている今どき
の感覚は、とても浅薄なものなのではないか……と、感じる。とうようなつも
りでしたが、『明け方の猫』として発表された部分が、私にはどうしても面白
いものとは思えなくて、「あのつづきを書くより新しいものをはじめることに
しよう」ということになったのでした。
が、このホームページをつづけるにあたってカネがない。特に管理者がカネが
ない。しかもその管理者の猫は病気になってしまった。そういうわけで、私は
当座のカネほしさに、あの小説を多少手直しして雑誌に掲載して、掲載料をも
らい、それをホームページにあてることにしたのでした。

私は哲学が小説よりも難しいとか優れているとか頭を使うとかの価値観に断固
たる抗議をつづけている小説家です。その私が、『世界を肯定する哲学』に基
づいて『明け方の猫』を書いたと思われては困るのです。『明け方の猫』を書
いていたときに考えていたことが、そのまま『世界を肯定する哲学』になった
のです。その逆ではありません。――しかし、もし『世界を肯定する哲学』が
『明け方の猫』の前に出ていなかったら、あの小説はそれほど〈世界〉との関
係について考えている小説として読まれたでしょうか。たぶん読まれなかった
であろうことは、いままでの小説の読まれ方が証明しています。だから、瓢箪
から駒、怪我の功名、だったわけです。

ところで、では何故、小説家である私は小説の方が哲学より頭を使うというの
でしょうか。いろいろ理由のあるうちのひとつは、私が小説家だからです。私
は『世界を肯定する哲学』の1章をだいたい1週間から10日で書きました。
1章あたり30枚弱です。しかし小説をそんなに速く書くことはできません。
ああいうエッセイを書くより、小説を書く方が手間だからです。
小説を書く場合、私はいくらでも手間をそれに投入することができます。しか
し、エッセイの場合、投入する手間には限界があります。というか、簡単に「
ま、こんなもんでいいか」と、思ってしまうわけです。小説だと、小説を書か
ない人には「これでじゅうぶんにいいんじゃないの?」と思うかもしれないと
ころでも、私には全然じゅうぶんじゃないことがわかるわけです。その手間を
通じて小説には重層性が生まれてきます。簡単に読み飛ばしても面白い。しか
し、繰り返し読んでみると別の面白さが生まれてくる。……したがって、小説
は読む側もいくらでも頭を使いつづけることができる。そのことを広く理解さ
れたいために、「小説の方が哲学より本当は難しいんだ」と、繰り返し伝導し
ているのです。

昨今の情報化社会において、哲学の方が「価値」を認められがちな風潮は、小
説より哲学の方に流通しやすい情報的な要素が多いことを示唆している――と、
哲学にとってはとても皮肉なことが言えるのかもしれませんネ。
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■新連載 ゲスト劇場・第一回 ご隠居さんの巻
 ご隠居倶楽部・活動報告 『ライク ア ロージン』

正直な話、僕は老人好きだ。外人ではなくて、老人。念のため。そりゃあもち
ろん嫌いな老人もいるけど、外人好きが外人だったら誰でもいいってわけじゃ
ないのと同じこと。そういう感じで僕は老人が好きなのだ。好きなタイプの老
人を見かけたら大胆にお近づきになったりする。例えば近所の伊藤さん。いつ
も朝と夕方に獰猛そうなシベリアン・ハスキーを連れて散歩しているところに
よく出くわす。後でも先でもなくハスキーと並んでのそのそ歩いている姿にほ
ろっときてしまうわけだ。で、こちらから挨拶するようになった。ある日の夕
方、僕が坂道をのぼっているとそのハスキーが伊藤さんからずいぶん離れたと
ころに立っていた。さすがに恐怖を感じて立ち止まると、「雷にびっくりして
逃げ出したんだよ。ちょっとロープをつかまえてくれんかね」と言う。自分で
つかまえりゃいいのに、と思いながらも「大人しい子だから大丈夫」と微笑ま
れてしまうと引っ込みがつかなくなる。恐る恐る近づいて、僕はロープを足で
踏んだ。そんなことがあって以来、伊藤さんはときどきキャンディーをくれる
ようになった。30をこえたいいオトナが、って照れみたいなものがないわけ
じゃないけど、それでもキャディーをもらってしまう僕は遠慮がないというよ
りは老人好きなんだと思っている。
そんなわけで、僕が関係をもった老人はこの年齢(現在31歳)にしてはかな
り多い方だと思うのだけど、いちばん強烈で、今でもメロメロなのが渡辺専松
というじいさんだ。専松さんと初めて出会ったのはちょうど去年の今頃。友達
が日舞の発表会の招待券を送ってくれたので深川まで出かけたときのことだ。
もともと日舞に興味があったわけじゃなく、その界隈を散歩する方が楽しみだ
った僕はとりあえず友達の出番を確認しに行った。そして、会場である深川江
戸資料館のいくつか先の四つ角に専松さんの店「美松」を見つけたのだった。
まだ暖簾は店の内側にかかっていたが、入ってきてくれと言わんばかりに戸が
大きく開け放たれていた。中を覗くと白い上っ張りを羽織ったじいさんが一人、
ビールを呑みながらプロ野球中継を見ている。仕込みなんかする気配を全く感
じさせない気の抜け方だ。この大らかさが老人というもの。「すんません、も
うやってるんですか?」僕は何故だか関西弁で声をかけていた。振り返った専
松さんはすでにうっすら赤ら顔。「やってるもやってねぇも同じようなもんさ。
お入りよ」そう言ってニヤッと笑ったその表情に僕は一発でまいってしまった。
当然このときが初対面だったのだけど、非常に無防備な顔だったのだ。これは
誰にでもできるような芸当ではない。酒に酔っぱらってただけじゃないの?と
思われる方がたくさんいるだろう。確かに酔っぱらってたのは事実にしても、
ただ酔っぱらってるだけじゃあの顔にはならない。満面に渡辺専松というじい
さんが現れてたのだ。で、そこに現れてた専松さんが僕の心をとらえたのだ。
カウンターに座ってビールを注文した。専松さんは「お口に合えば」と言いな
がらキュウリの浅漬けを出してくれた。それから友達の出番までみっちり3時
間もサシでしゃべった。戦争に行ったときの話、美松が開店した70年前の話、
同じ話を何回もしていた。終始うれしそうに話していた専松さんは生きる歓び
に溢れていた、なんて言ったら取って付けたようだけど。でもそんな感じに僕
には見えた。もちろん本人はそんなこといちいち意識してたりはしないんだろ
うが。たぶん、誰に対してもあんな顔を見せているのが専松さんなんだろう。
それが客商売だからじゃなくて、それが専松じいさんだからだ。もう僕はベタ
惚れになってしまっている。
壁に何故か相米慎二監督とのツーショットの写真が貼ってあったので聞いてみ
た。ら、ちょうどこの日の僕みたいにふらりとやって来た相米さんにスカウト
されて「映画にでちゃったんだよ、この年になってさ」だそうだ。客がいるの
に店のカラオケで軍歌を唄いまくっていたのが監督を惹きつけたと、じいさん
が見せてくれた新聞には書いてあった。相米慎二が老人好きかどうかは知らな
いが、専松さんは『あぁ、春』という映画に出たらしい。で、映画に出たかど
うかは関係なく、僕は専松さんにメロメロになってしまったのだ。
専松さんは大の釣り好きなので2、3日は平気で店を閉めたりするらしい。「
じゃあ電話番号を聞いとかなきゃ」と言ったら店のネーム入りのライターをく
れた。そのライターの中には小さな造花が入っていたので「育てるの大変だっ
たでしょ?」とボケをかましたのだが、どうやら通じてなかったようだ。この
へんは関西人だったらもう一発ボケで返してくれたりするのだが、これを専松
じいさんに要求するのはちと酷かもしれないと思った。
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おりましたら、ごめんどうでも以下メルアドまで「よせ!」とメール下さい。
また、こちらの手違いで二重配信されている方がおりましたら、これまた誠に
申しわけございませんが、「やめろ!」と、メールにてお知らせ下さい。
          gabun@k-hosaka.com 高瀬がぶん
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         今月の【わたしのオススメ映画・舞台・音楽】
◆馬場俊英(ミュージシャン)
譜面台の脚がいちばん前の席の人の靴にぶつかって「ごめんね」と謝るくらい
の距離にあるステージで、毎月アコースティックギターを弾いて、巨人戦の話
をしながら、前日に公園のベンチで作ってきた曲とか、80年代の歌謡曲、ビー
トルズやジェイムステイラーの曲なんかを唄っている。ライブが終わったら「
今日はありがとう」とそれぞれに挨拶をして、翌日にはホームページに「僕は
今の自分の活動や音楽、そして足を運んでくれるファンの人達との関係を誇ら
しく思った」と書いてある。そして「猫のチュウタがミキサーの横にゲロを吐
きました!」と言うその部屋で、新しい曲をひとりコツコツ録音して、それで
ようやくできかかってきたCDは、これと言って特別なことなんかない、日常の
景色に似合う音があふれているんだろうなぁ、と思う。
私は馬場さんの姿を見ながら、彼の歌を10年近く聴いてるけれど、ずーっと気
持ち良いままです。いいでしょ、なんとなく? (ちぇり)

          今月の【わたしのオススメ本】
■「おきて」岩合光昭/小学館
「おきて」は一年半に亘り写真家の岩合光昭さんが、家族と共にアフリカのセ
レンゲティに滞在し撮り続けた三百ページからなる写真集とその解説です。ラ
イオンが自分の何倍ものバッファローに襲い掛かる瞬間やチータ親子のもの悲
しそうな佇まい、何十万頭を超すヌーの大移動、真っ赤な夕日を背景にシルエ
ットのようなキリン等々野生動物の営み(戦い)を生々しく捉えています。そ
こには強者と弱者、勝者と敗者の世界が歴然としてあり、岩合さんはこれらの
写真を通して、その力と秩序こそが人知を超えた「おきて」であり「地球の約
束」なのだと訴えているのだろうと思います。
そんな中にもカバやリカオンが大あくびをしているユーモラスなものや、狩の
間ののどかな光景、かわいらしい子供達との戯れが見られ、何度見ても飽きる
ことがありません。旅発つにあたり持参した百本の音楽テープの中でセレンゲ
ティの自然にぴったり合ったのが、モーツァルトの「バイオリンとビオラの為
の協奏曲K364」だったそうです。(なべ)

■「美しい鹿の死」オタ・パヴェル/紀伊國書店 本体1600円
その1
1930年、著者オタはユダヤ人の父とチェコ人の母の間にプラハで生まれる。
「美しい鹿の死」が発表されたのは1971年、プラハの春をつぶしたワルシ
ャワ条約機構軍のチェコスロバキア占領の3年後である。暗い時代である。こ
の本は国民の支持を受けた。
「美しい鹿の死」はオタの幼年時代を思わせる内容であった。1940年代、
ナチスによって強制収容所へ送られるという前の日、父は息子のために鹿の密
猟をする。食わせるためであった。文体は明るくほがらかでさえある。この本
は8つの小説が組まれているが、全編を通してユーモアに満ちている。幾度と
なく、検閲に鍛えられてますます表現を研ぎ澄ませていったのだと思う。そし
て、それが、現実の悲惨さを包み込み、なお切り刻もうとする力をはじき返し
たのだろう。この朗らかさとユーモアに満ちた作品が、底なしの人間の悪を静
かに見ている。 私たちは薄っぺらすぎる。(黒い犬)

■「実録・外道の条件」町田康/メディアファクトリー
町田さんご本人(たぶん)が遭遇した外道たちのお話。ねっちゃりとした町田
節に浸りながら、町田さんのまじめっぷり光線をびゅーびゅーに感じる、清清
しくも痛い作品です。
約束の時間前までには必ず待ち合わせに臨み、「ボランティア」なる言葉の意
味を厚ぼったい辞書で体を痛くしながらひく、等々、氏の姿勢に感動させられ、
外道のふりみて我がふり治せ的よき指南書ともなっています。外道をめざすな
らもちろんおすすめ。ご自宅のファクシミリ(巻き物感熱紙)のぐごごご、ぎ
ゅん、ぎゅるる悶え苦しむ動態の観察は、音を発するものに対する氏の愛を感
じます。まじめさが高じたのでしょうか。昨年末とうとう体を壊し、お正月を
入院して過ごされたようです。回復されたとはいえ心配です。難をいえば顔写
真に覆われた装丁、どうしたらよいでしょう。松浦理英子氏の時以来の衝撃で、
取る手が震えます。大っぴらにかっこよくってこわいです。エイブルのCMも謎
でした。(くま)

■「映画はおそろしい」黒沢清/青土社
『地獄の警備員』、有名どころでは『CURE』、最新作『回路』に至るまで数々
のこわーい映画を撮ってきた黒沢清という人が、実はかわいい人だということ
がこの本を読むとわかります。女の子に、映画館で映画を見ることとビデオで
映画を見ることの違いを冷や汗かきながら一生懸命説明したり、コピューター
ゲームが若者をおかしくするという典型的な大人の態度に、少しは本気でゲー
ムをやって「コツコツと努力して目標を達成することを学べ」と大まじめに反
論したりもする。
もちろん映画評もおもしろい。今までに見てきた映画の圧倒的な本数が「映画
とは○○だ」と語らせることを禁じる圧倒的な重みとして伝わってくる。だか
ら映画監督黒沢清の「映画はおそろしい」というつぶやきは、映画によって人
生を変えられた一個人のつぶやきとしてもちゃんと聞こえてくるのだ。そんな
「おそろしい」映画をやっぱり見たくなります。その前にまずは最新作『回路』
から……ぼくは最新作を見ていない悪いファンなのでした。(チイ)
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           読者投稿【わたしのオススメ】コーナーのお知らせ
 みなさんのお気に入りの本、映画、音楽、芝居、飲み屋、雑貨、漫画など、
 なんでもありのオススメ文を募集します。
 字数は本文のみ(題名、名前、出版社などは別)400字以内
 オススメの理由や感想など書き方は自由ですが、自分らしいものをお願いしま
 す。一応その月の〆きりは毎月10日、構成その他の都合上、必ず載るとは限り
 ませんが     keito@k-hosaka.com まで、待ってます。
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■連載【稲村月記】vol.03(フォトコラム) 高瀬がぶん
◆ハリガネ造形作品『タブラ・ラサの秘密』
※写真付きWEBページでお楽しみ下さい。
 http://www.k-hosaka.com/gekki/gekki03/gekki03.html
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■新コーナー・保坂和志の質問保箱
私の独断で、質問はすべて匿名とします。名乗りたい人は、掲示保坂で名乗っ
てもさしつかえありません。

●質問1
保坂さんは、『生きる歓び』のあとがきで「この二つの小説の中で…中略…“
ウソ”は書いてない。…中略…「小説」と言っているんだったらウソのあるな
しにこだわる必要もないだろうけれど、今回の私はこだわる。だったら小説で
はないんじゃないかという意見もあるかもしれないけれど、私は小説であるこ
とにもこだわる」と書いていましたが、この二つの小説以前の小説でも、ある
風景の描写を書いてから本当にその描写に“ウソ”がないか、もう一度確認し
に出かけたことがあるという話を聞いたことがあります。『生きる歓び』に関
してはあとがきを読むと、一つには「小説」がウソ、つまりお話として無自覚
に書かれ、読まれることやそのことに開き直る態度に対するアンチテーゼとし
て書かれているのだなと思いましたが、描写のエピソードも合わせてそれだけ
ではなく、もっと保坂さんが小説を書くことに関わる本質的な問題なのかなと
も思いました。その辺のことをもう少し聞きたいです。 

●質問2
小説「明け方の猫」について
(日)保坂さん自身は、自分が夢を見ているということを明瞭に意識して、そ
の後も同じ夢を見続けたことはありますか?
(月)僕の場合、夢の中で「これは夢なんだ」と認識した途端に、起きて(夢
から抜け出そうという意識が働いて)しまいます。(上記(日)に対する保坂
さんの回答が「はい」だとしたら、)夢と判っていながら夢に居残れる人と、
夢と判ると夢から抜け出してしまう人の違いとは何だと考えますか? 

   ※回答は http://www.k-hosaka.com/Q&A/hobako.html で。
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今までの「ジャパニーズ・ガウンの巻」を読んでいない方はこちらから。
 その1 http://www.k-hosaka.com/inamura7/ina01.html#silk
 その2 http://www.k-hosaka.com/inamura7/ina02.html#silk
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■連載【興味津々浦々】vol.04
         「ジャパニーズ・ガウンの巻(その3)」春野景都
その3
突然の電話にもかかわらず、直接、深井晃子さんと話すことができた。京都服
飾文化研究財団のキュレーターであると同時に神戸女子大の教授でもある深井
さんは、その他にファッション関係のお仕事などで東京におられることも多く、
直接ご自身と電話で話すことができたのは、本当になんと幸運なことか。
椎野正兵衛に興味があり、いろいろ調べているとのことを話すと、
「彼についてはわからないことだらけなんですよ。うちで所蔵しているジャパ
ニーズガウンも、あらかじめ椎野正兵衛のものということがわかっていて手に
入れたわけではなく、ここにきてから、偶然、裏に縫い付けられていた商標を
発見したんです。もちろん、椎野正兵衛の事は知っていましたし、一度見てみ
たいと思っておりましたので、彼のガウンだと分かった時には、驚きました。
それに、当時はヨーロッパで、ショウベイブランドは随分出回ったはずですの
で、他にも残っていると思うのですが、いまだにこれ以外見たことはないんで
すよ」と、深井さんはとても親切に教えて下さった。
赤坂の料亭で椎野さんにお会いした後、手に入れることができた深井晃子さん
の著書「ジャポニスムインファッション」を読むと、鎖国後の日本が西洋諸国
とどのように文化交流をはかったのか、また、陶器や漆器、浮世絵や着物など
日本独自の文化が、19世紀後半のヨーロッパ(フランス、イギリスなど)の美
術や芸術にいかにおおきな影響を与えたのか、そしてそれは一方向ではなく、
日本もまた、その西洋で受け止められ広まったジャポニスムを見直し、またあ
らためて発信することで、今日までの文化、とりわけ服飾文化が、相互的に影
響を及ぼし合って発展してきたということがよくわかる。そして、椎野正兵衛
は、その始まりのところで、つまり、開港間もない頃にひとつのおおきな役割
を担った人物と考えられる。横浜の産業や貿易などの経済面ばかりでなく、後
のファッションを含めた文化面で、彼が果たした役割は想像以上に大きいので
はないのだろうか。
こんど、京都に行くので、もしできたら、そのガウンを見せてほしいと言うと、
自分はいないけれど、いいですよと、こころよく深井さんは答えてくれた。

今回の京都旅行はチョウ子さんとエムさんとの三人組。若い頃には、何日も泊
まりがけでさんざん京都の取材をさせられたというファッション雑誌の現役編
集長と元編集者のお二人と一緒なら、鬼に金棒。おいしいものもいっぱい食べ
られそうなのだ。おもしろい長襦袢屋さんを楽しみにしているチョウ子さんと、
超多忙の合間をぬってこの旅行に参加し、弘法さんの骨董市で古い着物も見た
いわと言ってるエムさん、何はともあれ、椎野正兵衛のガウンに会えると意気
込んでいるわたしと、三者三様の思いを調整するために、そして、一分だって
無駄な時間ができないように、新幹線の中で、念入りにスケジュールをたてた。

京都には昼前に着いた。まずはホテルに荷物を置き、予約していた創業三百年
のお麩専門の料理屋で腹ごしらえ。そして、JR京都駅からひと駅め、西大路に
向かった。京都服飾文化財団では学芸課の周防さんと三好さんが出迎えてくれ、
深井さんから話を聞いているということで、さっそく、所蔵品の保管場所に案
内してくれた。そこは、温度、湿度を常時一定に保ってあるのだが、何百年も
昔のドレスや帽子、コルセットや布地などが保管されているせいか、ひんやり
と静かで、なにかちょっと、ただならぬ空気。
部屋に入ってすぐの大きな机に寝かされている大きな物体があった。
「あ、これですか?」
白い紙にすっかり包まれてあるせいか、なんだか、人間ひとり寝ているように
も見える。
「そうです」
紙から取り出された椎野正兵衛のガウンは、思ったよりもずっと状態がよく、
ほとんど、新品なのではと思われる程で、組み紐でできたローブもよれた様子
もなく、全体的に100年以上も昔のものにはとうてい見えない。
「紙でできた商標が糸で縫い付けられているのですが、それがそのまま、つい
ているので、もし、着たとしても、数える程かもしれませんし、少し、角が擦
り切れた部分もありますので、まったく使ってなかったとも思われないのです
が、いずれにしても、とても、大事にしていた感じですね」
後ろからのアングルは、写真で見ていたけれど、やはり実物は違う。大きさも
風合いも色目も、そして、やはり、このガウンが過ごしてきた時間とでもいう
のだろうか、写真を見た時とは全く違う感慨が、見ているだけで湧いてきた。
とは言え、当然ガウンが自分の生い立ちを話してくれるわけもなく、しかも、
周防さんの説明によると、このガウンはアメリカのディーラーから手に入れた
もの、ということ以外わかっていることがないのだそうだ。
「このガウンの他に、うちで保管しているものでおもしろいものを見せてあげ
るわね」
そう言って周防さんが出してきたものは、どれもこれも、歴史ってほんとに怖
いんだから、というものばかり。1500年代のフランスの鉄製のコルセットはバ
ストサイズで69センチと小さくて(ウエストなんて50センチもないんじゃない
のかな)、ちょっとした拷問機具のようだし、1600年頃のイギリス、エリザベ
ス一世のボディース(小さな上着)は、リネンの平織りに金糸、銀糸、絹糸の
豪華な刺繍が施されていて、目も眩むほど豪華なのだが、エリザベスの寵愛を
受けていたエセックス伯爵が、彼女に背き(彼女の素顔を見てしまったのが原
因とも言われる)死刑宣告を受けてしまい、その母親が、死刑の取り止め嘆願
のために贈ったものなのだ。もちろん、聞き入れられぬまま死刑執行。たぶん
エリザベス一世が袖を通すこともなく、こんな場所で眠ることになってしまっ
たボディース、お花の他に、刺繍のモチーフになっている蜘蛛や蛇、毛虫ばか
りが目に飛びこんできて、エセックス伯爵の悲しい顔と母親の恨みのこもった
顔が浮かんできてしまう。(つづく)
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■編集後記
5月になったとたん、庭の雑草が目に見えて伸びていくのを感じるようになった
んだけれど、雑草に混じって、見なれない葉っぱをみっけ。父が札幌から送っ
てくれて植えたすずらんに、もうつぼみまでついていた。昔、わたしが育った
家の近くにすずらんが群生する湿地帯があって、そこは生い茂る木々のせいで
いつも薄暗かったんだけど、春になるとびっしりと白い小さな花が咲いて、説
明できないほどすごーい香りが漂っていた。庭ですずらんをみっけた時、一瞬、
あの強烈な香りがして、あの風景を思い出した。ふー、脳って親切。(けいと)
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2000/05/20 vol.03 メールマガジン【いなむらL7通信】3号
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